TlCuCl3のマグノンボースアインシュタイン凝縮相のミリ波帯に現れる励起モードにも方向二色性が生じる事を明らかにし、マイクロ波領域でのゴールドストーモードの場合と同様に、電気分極測定から決定した係数テンソルを用いて久保理論から計算した理論値によってその二色性強度が良く説明できる事を示した。さらに、このミリ波帯のESR信号の温度変化を詳細に測定し、常磁性相からマグノンボース凝縮相への相転移挙動を調べた。過去のNMR測定からTlCuCl3のマグノンボース凝縮による磁気転移は弱い一次転移である事が報告されているが、我々の測定から約6Tの量子臨界点に近づくにつれて一次転移の共存領域が広がる振る舞いが明らかとなった。一方、対称性に基づいた考察からは、TlCuCl3の磁気秩序変数と電気分極それぞれの奇数項の積が不変項になっている。このことから、一次転移の原因が量子揺らぎと電気分極に関係している可能性があるが、今後更なる検討が必要である。また、擬一次元量子磁性体BaCo2V2O8について行った偏光を用いた強磁場ESR測定から明らかになったこの物質の磁場誘起朝永ラッティンジャー液体相の磁気励起モードの選択則について考察を行った。その結果、通常の光学遷移では禁制な波数k = πおよびπ/2の励起状態への遷移が、BaCo2V2O8の四周期の結晶構造に由来した二倍、および四倍周期の摂動的磁気相互作用による状態混成と、本課題で提案しているスピンと電気分極の動的な結合によって生じていることとが示された。
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