研究課題/領域番号 |
17H02918
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧川 仁 東京大学, 物性研究所, 教授 (10179575)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴 / 非クラマース基底状態 / 多極子 / 重い電子系 |
研究実績の概要 |
立方対称の結晶場中で非磁性基底状態を持ち、低温で強四極子秩序を示すカゴ状化合物PrTi2Al20について、磁化およびNMR測定によって詳細な温度・磁場相図を決定した。得られた相図は、磁場の方向に依存する極めて異方的な特徴を示す。磁場を結晶の[111]方向に印加した場合には、磁場の強度に依らずに温度2K以下でO20型の強四極子秩序が出現するのに対し、[001]または[110]方向に磁場を印加すると、わずか数テスラの磁場によって、四極子パラメータがO22型からO20型へ、あるいはO20型の負の値から正の値へと不連続な飛びを示す。磁場と直接結合しない非磁性基底状態にある系の電気四極子秩序がこのような強い磁場効果を示すことは、まったく予期しなかった現象である。 現象論的なランダウ理論、および微視的なハミルトニアンに基づく平均場理論を用いて、この現象を説明することを試みた。その結果、隣り合うPrサイトの四極子間の相互作用が、磁場に依存する異方性を発現することが示唆された。磁場による不連続転移は、この異方的四極子相互作用と磁場によって誘起された磁気モーメントのゼーマンエネルギーとの競合によって説明できる。しかし、このような異方的相互作用が磁場によって引き起こされるメカニズムに関しては、まだ未解明であり更なる理論的研究が必要である。一方で、低磁場の四極子秩序相においては、磁化率とNMRナイトシフトの比例関係が破れることが見出された。これは四極子秩序の出現によって、伝導電子とf電子の間の混成(c―f混成)が変化することを示している。そもそも四極子秩序を引き起こす相互作用はc―f混成を通じて伝導電子によって媒介されることを考えると、この系においてはc―f混成と四極子秩序の間に強いフィードバック効果が働くことを示唆している。この結果は現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
非クラマースPr化合物PrTi2Al20に関しては、「研究実績の概要」に記したように予想以上の成果が得られた。しかしこのテーマの研究に多大な時間を要したために、他のテーマ、特にパイトクロア化合物Pr2Zr2O7における量子スピンアイス状態に関する研究は殆ど進展していない。またPrTi2Al20の高圧力下の物性、特に四極子秩序が消失すると予想される10GPa付近の高圧における超電導状態を調べることも、本研究の重要な目的であるが、これについては現在までNMR用圧力セルの圧力校正など準備段階が終わったところで、本格的な測定はこれからである。この系でチタンをバナジウムで置き換えたPrV2Al20はc―f混成が更に強く、多重多極子転移や四極子近藤効果などの新規な現象が観測されている。しかしPrV2Al20に対して予備的なNMR実験を行ったところ、低温で線幅の共鳴増大が著しく、試料の不均一性が大きいことが明らかになった。PrV2Al20に関しては、純良な単結晶の育成を試みている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
① PrTi2Al20における磁場によって誘起される異方的四極子相互作用、およびc―f混成と四極子秩序の間のフィードバック効果は、本研究によって提起された新しい問題であるので、今後はその微視的機構の解明に向けた取り組みを工夫する。1例として低磁場のNMRとゼロ磁場NQRの結果を比較して、磁場によってf電子の電荷分布が影響を受けるかどうかを検証する。 ② 進展が遅れているPr2Zr2O7の量子スピンアイス状態、特に[110]方向の磁場下におけるダイナミクスの解明、およびPrTi2Al20の高圧力下におけるNMR測定を本格的に推進する。 ③ PrV2Al20の試料の質の改善を引き続き試みる。
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