研究課題/領域番号 |
17H02920
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井澤 公一 東京工業大学, 理学院, 教授 (90302637)
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研究分担者 |
町田 洋 東京工業大学, 理学院, 助教 (40514740)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 多極子 |
研究実績の概要 |
本研究では,多極子(軌道)自由度が活性なPr化合物に見られる多極子と強い電子相関がもたらす特異な量子凝縮状態の本質を明らかにすることを目的としている。平成29年度は,その目的に基づき,軌道自由度に由来する新奇電子状態の探索・理解のための (i) 高圧下熱電係数測定システムの構築,および四極子近藤効果に由来する非フェルミ液体とその基底状態に関するより具体的な知見を得るための (ii) 極低温磁場中輸送係数精密測定の2つのテーマを並行して行った。 まず,(i) 高圧下熱電係数測定システムの構築では,10 GPa以上の圧力領域,1 K以下の極低温領域で実験可能なシステムにするため小型ブリッジマン型圧力セルを採用し,その圧力セルを用いたシステム開発を行った。その結果,電気抵抗率,ホール係数はもちろんのこと,ゼーベック係数,ネルンスト係数の精密測定が可能なシステムを構築することが出来た。そしてその構築したシステムを用いた実験により,Pr1-2-20系において四極子秩序が圧力により抑制されるとともにゼーベック係数が低温に向かって異常に増強される事を確認した。現在,圧力を変化させてその詳細を調べている。 一方,(ii) 極低温磁場中輸送係数精密測定では,PrT2Zn20 に対し,電気抵抗率,ホール抵抗,ゼーベック係数,ネルンスト係数,熱伝導率,熱ホ ール係数の全ての伝導率テンソルを[100],[110],[111]のすべての磁場方向で系統的に測定し,それらの結果から,すべての磁場方向に対する精密な磁場-温度相図を構築した。その結果,相図上の低温で見られる非フェルミ液体的挙動,四極子秩序,重い電子状態,磁場誘起一重項の4つの状態は,磁場方向によらず存在すること,またその一方でそれぞれのエネルギースケールは磁場方向に強く依存すること,さらにはそれが結晶場基底状態であるクラマース二重項の分裂幅で整理できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に計画していた,高圧下熱電係数測定システムの構築,およびPrT2Zn20の極低温磁場中輸送係数精密測定のすべてについて予定通り遂行し,期待していた結果を得ることが出来ている。さらには,平成30年度以降に予定していた高圧下における輸送係数の測定に既に着手しており,結果が得られ始めている。また,他のPr化合物の熱電係数の精密測定についても試料を入手し,測定に取りかかっており,これについても新たな結果が得られ始めている。このように現時点で当初計画よりも若干早く計画が進められており,研究計画は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,当初計画に従い,すでに着手している高圧下における輸送係数の測定,および他のPr化合物の熱電係数の精密測定を進めてゆく。 前者では,ゼーベック係数,ネルンスト係数,電気抵抗率,ホール係数の高圧下測定を行い,非フェ ルミ液体を特徴付けるエネルギースケールの圧力変化を調べることにより,四極子近藤効果に対する圧力効果を明らかにする。また,特に臨界的挙動に敏感なゼーベック係数およびネルンスト係数から,圧力により四極子秩序が抑制され消失する点近傍での臨界的挙動の有無や,四極子に関わる臨界的挙動が存在する場合にはその詳細を調べる。 後者では,他の関連したPr化合物に対する熱電係数精密測定の結果から,物質によらない四極子由来の電子物性における普遍性を調べる。またそれと同時に,相違点から多極子と伝導電子の混成の違いなど物質に依存する要素もあわせて調べる。
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