研究実績の概要 |
本研究では,多極子(軌道)自由度が活性なPr化合物に見られる多極子と強い電子相関がもたらす特異な量子凝縮状態の本質を明らかにすることを目的としている. 令和3年度は,昨年度調べた[100]方向に引き続き,磁場を[110],[111]方向に印加して測定したPrRh2Cd20の極低温磁場中の電気抵抗率の結果から各磁場方向の温度磁場相図を構築した.その結果,[110],[111]方向に磁場を印加した場合も,[100]方向と同様,非フェルミ液体的挙動および磁場誘起一重項に由来すると考えられる挙動が見られる領域が存在すること,そしてそれらに大きな異方性があることがわかった.さらにこの異方性は,非クラマース基底二重項の分裂の大きさδ(B)で説明できることが明らかとなった.これは,本研究で扱っているPr-1-2-20系に共通した特徴であると考えられる.しかし,非フェルミ液体領域と磁場誘起一重項のクロスオーバー温度が関連物質のPrT2Zn20(T=Ir,Rh)ではδ(B)の2乗に比例しているのに対し,PrRh2Cd20ではδ(B)に比例しているという違いがあることがわかった.これは,PrRh2Cd20の高磁場領域で,四極子近藤効果は抑制され,局在描像に変化していることを示している. 一方,局在結晶場モデルに基づき電気抵抗率の計算を行い,実験結果と比較すると,高温高磁場領域の電気抵抗率は異方性も含めこのモデルでよく説明できるが,低温低磁場領域における非フェルミ液体的挙動は説明できないことがわかった.これは,c-f混成の弱いCd系においても低温低磁場領域では,四極子近藤効果が実現していることを支持する.これは,四極子自由度が活性な系におけるRKKY相互作用と近藤効果の競合関係が,従来のスピン自由度が活性な系におけるDoniach描像でみられるものとは異なることを意味している.
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