研究課題/領域番号 |
17H02923
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
岸根 順一郎 放送大学, 教養学部, 教授 (80290906)
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研究分担者 |
戸川 欣彦 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00415241)
加藤 雄介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20261547)
松浦 弘泰 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40596607)
福島 孝治 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80282606)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カイラル物質 / 磁性 / ソリトン格子 |
研究実績の概要 |
2018年度の主な実績は以下の通りである.[1]カイラル磁性体は,対称性由来の横波弾性波・スピン波の結合がある.この結合は,結晶のカイラリティを反映して一方通行の(非相反的な)弾性波を生み出す.この成果についてPhys.Rev.B 97,184303(2018)に論文発表した.[2]一軸的カイラル磁性体に振動磁場をかけると,磁場の向きに応じて本質的に異なる応答が現れることを見出した.この成果についてPhysical Review B 98,144407(2018)に論文発表した.[3]対称性の理論を活用して,反強磁性絶縁体においてカイラリティ自由度を持つマグノンカレントが誘導できることを示した.この成果について,Phys.Rev.B 98,134422(2018)に論文発表した.[4] 軌道角運動量を運ぶ光である光渦をランダウ量子化された2次元電子系に照射すると,従来知られていなかった光遷移が起きることを示した.この成果について,J.Phys.Soc.Jpn.87,113703(2018)に論文発表した.[5]キャビティに閉じ込めたマイクロ波をナノスケールオブジェクトと結合して力学的に操作する問題が大きな注目を集めている.この問題に関して,カイラルソリトン格子を用いた共鳴機構の理論提案を行った.この成果についてPhys.Rev.B 98,220411(2018)に論文発表した.[6]カイラル磁性体薄膜では,2次元性に由来する特有の融解現象が期待できる.この問題は,磁気系におけるコスタリッツ・サウレス転移の検証という大きな問題と結びついている.この問題に実験・理論両面から取り組み,結晶カイラリティを直接反映した位相欠陥の融解現象を見出した.この成果についてPhys.Rev.Lett.122,017204(2019)に発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下に述べる成果は当初予想しなかったものであり,2018年度最大の成果である.磁性体中の磁気モーメントのようなベクトル量を構成要素とするシステムの場合,ベクトルの配向分布がつくる「渦」が結合したり乖離したりすることで転移が記述される.この現象を最初に予言したコステリッツとサウレスには2016年のノーベル物理学賞が授けられた.さらに,ベクトルの位置にも揺らぎを許す場合,位置の秩序と配向の秩序が現れ融解が3段階で起きることが1970年代に予言された.この提案は提案者(コステリッツ,サウレス,ハルペリン,ネルソン,ヤング)の頭文字をとってKTHNY理論と呼ばれる.しかし,その実証例はコロイド懸濁液, 層状液晶,固体表面の気体吸着などに限られており,本命である磁性体での例は見出されぬままであった. 今回,戸川,岸根らは2次元系特有の融解現象が左右対称性の破れた磁性体(カイラル磁性体)の薄膜で起きると予想し,磁性体としては世界で初めて3段転移の実証に成功した.今回発見では,磁気モーメントの捩じれが温度とともに増発してらせんの周期が縮む,という新たな第2段階の中間相が見出された.溶けるというと,密度が減ると考えるのが普通だが,今回の例は密度が増大する極めて新しいタイプの融解現象である.
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今後の研究の推進方策 |
2018年度までに予想を上回る成果が得られている.こでは,研究分担者および,海外(ロシア,イギリス,カナダ)共同研究チームとの連携体制が確立できたためである.研究課題を共有し,研究手法を持ち寄り統合する体制も整った.今後はこのチームワークをより進化発展させ,理論物理研究ならではの「当初予想しなかった結果」を出していきたい.
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