研究課題/領域番号 |
17H02924
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
望月 維人 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80450419)
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研究分担者 |
古川 信夫 青山学院大学, 理工学部, 教授 (00238669)
竹内 祥人 青山学院大学, 理工学部, 助教 (80738328)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スキルミオン / 磁性 / トポロジカル / スピントロニクス / 非平衡ダイナミクス |
研究実績の概要 |
(1)「磁気スキルミオン」をメモリ素子の情報担体として応用するための基盤技術として、磁場印加による生成手法を理論的に設計した。原理的に印加スポットをナノ領域に絞ることが困難な磁場を使って、ナノ磁気構造であるスキルミオンを「狙った領域」に「意図した数」だけ書き込むことは一見不可能に思われる。また、トポロジカル磁気構造であるスキルミオンの生成には、通常、局所磁化反転が必須であり、消費電力が大きくなってしまうという応用上の困難があった。このような困難が、系にナノスケールの切り欠きや孔を導入することで解消され、大域的な磁場印加でも、切り欠きや孔部に、磁場照射時間に比例した数のスキルミオンを、極小の磁場で書き込めることを見出した。また、この理想的な現象がなぜ可能なのか、背後にある物理機構と生成過程における非平衡ダイナミクスを理論的に明らかにした。
(2)スキルミオンの技術応用に向けては、その欠陥制御も重要な基礎技術になる。ローレンツ透過型電子顕微鏡による磁化構造観察を得意とする阪府大の実験グループと共同して、磁場印加によるスキルミオン結晶の生成プロセスと欠陥構造について調べた。その結果、(1)スキルミオン生成は試料端や粒界面から起こること、(2)生成されたスキルミオン結晶の方位は試料端や結晶粒界に支配されること、(3)その結果、スキルミオン結晶ドメイン間には五員環構造や七員環構造と呼ばれる欠陥構造が発現することを明らかにした。
(3)磁性体と金属の接合界面で実現する二次元ラシュバ電子系に円偏光電磁波を照射すると、その振動電場成分がラシュバ型スピン軌道相互作用を通じて誘起する有効的な円偏光磁場により、通常の場合と比較して数万倍の効率でスピン偏極を誘起できることを発見した。この現象は、円偏光による効率的な磁化制御、特にトポロジカル磁気テクスチャの省エネルギーな書き込み技術として利用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度計画は、「新規な非平衡ダイナミクスやデバイス機能を発現するトポロジカル磁気テクスチャの理論的探索」であった。それに対し、初年度の前半では、上記の研究実績のように、「磁場によるナノスケール磁気スキルミオンの書き込み技術の理論設計」や「スキルミオン生成過程とドメイン間に発現する欠陥構造」、「ラシュバ電子系を利用した円偏光電磁波による超高効率スピン偏極誘起」と、本来、新規トロジカル磁気テクスチャを設計した後に、それらの磁気テクスチャを対象に2年目に遂行しようとしていた研究テーマを、スキルミオンを対象に初年度に遂行してしまった感がある。そして、本来の「トポロジカル磁気テクスチャの理論的探索」が後回しになってしまっていることを少し懸念していた。しかし、初年度の後半には、従来の「ブロッホ型」と呼ばれるスキルミオン以外に、「ネール型」や「アンチボルテックス型」のスキルミオンが発現する条件を同定し、これらの新しいトポロジカル磁気構造を対象に、「傾斜磁場中のマイクロ波誘起ダイナミクス」や、「ラシュバ電子系を利用した交流電場による共鳴モード励起」、「スピン軌道トルクによる駆動」など、次の年度につながる、そして研究計画立案当時にはまったく予期しなかった新規で興味深く、応用上も非常に重要そうな現象や機能を次々に発見できた。次の「今後の研究の推進方策」で記すように、2年目には、発見したこれらの現象やデバイス機能を詳細に調べ、その背後にある物理機構の解明に取り組む予定であるが、当初計画より研究するべき課題が何倍にも増え、はるかに面白いテーマになってきたと感じている。以上の理由により、本研究課題の初年度における進捗は、当初の計画をはるかに超えたものであると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
トポロジカル磁気テクスチャが示す特異な集団励起・共鳴励起のモードを、磁化の時間発展方程式(LLG方程式)を数値的に解析することで、磁化の時空間ダイナミクスを調べ、明らかにする。特に初年度末に、傾斜磁場中のスキルミオンにマイクロ波磁場を照射すると、「新奇なマイクロ波共鳴モード」や「スキルミオンの並進運動」、「大きな直流成分を持つスピン起電力の生成」が実現できることを発見した。本年度は、これらの現象を数値シミュレーションと解析的理論の構築により、定量的かつ詳細に調べ、その物理機構や非平衡ダイナミクスの解明を目指す。また、これらの現象は(傾斜磁場中の)スキルミオンが示す特異な共鳴励起モードに由来することはほぼ明らかであるので、さらに進んでこれらのモードを他の外部パラメータで、より強く、より低エネルギーで励起できないか探索する。そして、これらの現象や、それらに由来するデバイス機能を高効率で実現したり、まったく新しい現象を引き起こすことを目指す。特に、磁性と誘電性の相互のカップリング(電気磁気結合)を利用した「動的電気磁気効果」に着目し、研究を遂行する。具体的には、非共線な磁化配列を持つトポロジカル磁気テクスチャは、誘電分極などの電荷自由度と結合することで、電場と磁場の両方に活性したな磁化・分極ダイナミクス(エレクトロマグノン励起)を示すが、この複合自由度の励起が必然的に持つ二種類の励起チ ャネル、つまり電磁波(光やマイクロ波)の交流磁場および電場成分による励起チャネルの干渉効果を考慮して、光やマイクロ波領域における新しい非相反方向二色性や磁気円二色性、磁気旋光性などの光・マイクロ波機能を探索する。
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