本研究は、申請者が発見したヘリウム薄膜弾性率の異常な増大を量子弾性効果と名付け、この現象の探求を基軸として、固体表面に吸着した原子分子薄膜の新奇物性を開拓するものである。申請時は、特にグラファイトの平坦かつ周期ポテンシャルを持つ表面上のヘリウム薄膜における超固体状態(固体の超流動状態)を探索すると共に、グラフェン上ヘリウム3薄膜で期待されるディラック分散や、純2次元トポロジカル超流動状態の観測をめざした研究を展開することを目指した。本研究開始後、ヘリウムより量子性が弱いネオンおよび水素薄膜でも弾性率の増大を観測したため、量子弾性効果と称していたこの現象を単に弾性異常と名付けた。多様な原子分子薄膜における弾性異常の物理的機構を解明し、ヘリウム以外の原子分子種における超流動状態の実現可能性を調べることが、本研究の目的である。 2018年度より目標の一つであるグラファイト上4He薄膜の弾性測定を行い、超流動と剛性の共存を示唆する結果を得た。弾性異常が第1層から2層完結までで観測され、吸着量増加とともに弾性異常温度が低下し、約1.5-2原子層の領域で0.4Kに留まりプラトーを形成する。プラトーの領域は、これまでリエントラント超流動もしくは超流動密度波共存状態の存在が主張されてきた吸着量領域を含むため、4He第2層目において超流動と剛性(固体性)が共存することを強く示唆する。これはヘリウム薄膜が超流動固体状態である可能性を示す初めての結果である。 さらに、グラファイトと同じ基板構造をもち、吸着第1層でも超流動性を示すことがシミュレーションで予想されている、六方晶窒化ホウ素(h-BN)表面上ヘリウム薄膜に対してもねじれ振動子実験を行い、弾性異常と超流動性を発見した。この結果により、h-BN表面上ヘリウム薄膜が新しい2次元量子多体系として多様な量子凝縮相を生み出すことが期待される。
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