研究課題/領域番号 |
17H02928
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
清水 直 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (60595932)
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研究分担者 |
塩貝 純一 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (30734066)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 物性実験 / 低温物性 / 電界効果 / 熱電効果 / 高温超伝導 |
研究実績の概要 |
本研究は、大きな熱電効果を有する二次元材料の研究・探索を行うものであり、近年精力的に研究が進められている層状カルコゲナイドの中でも特に、高い超伝導転移温度を示すFeSe薄膜および関連物質に注目する。イオン液体を用いた電気二重層トランジスタ構造を用いて、電気化学反応によりサブナノメートル厚みのFeSe超薄膜を作り出し、熱輸送特性の系統的な測定を行う。平成29年度は、申請書に記載した研究計画に従い、イオン液体中におけるFeSe薄膜の熱電効果測定を中心とした研究を行った。より具体的には、以下の研究を行った。 ①FeSe薄膜をチャネル物質とする電気二重層トランジスタを作製し、イオン液体中でFeSe薄膜の熱電効果測定を行った。イオン液体を通してFeSe薄膜に正電圧を印加すると、薄膜表面に多量(1平方cmあたり10の14乗のオーダー)の電子を蓄えることができる。この表面電子ドーピングにより、FeSe薄膜の超伝導転移温度を10 K以下から約40 Kまで上昇させた。この、超伝導転移温度の上昇は、FeSeに存在するホールと電子のフェルミ面のうち、ホールバンドを埋め尽くした状態に対応すると考えられる。電子ドープを行いながら熱電効果を測定したところ、フェルミ面の再構成に伴い熱電効果が上昇することを発見した。 ②電気化学的エッチングを行うにあたり、イオン分子の構造の影響を系統的に調べた。その結果、イオン分子の構造や価数を変えると、エッチングの進行のスピードや、試料表面に静電的に蓄積される電子キャリアの数が大きく変化することが分かった。特に、二価カチオンを含むイオン液体を用いると、一価のイオン液体に比べて超伝導転移温度が10K程度の大幅な増大を示すことを発見した。 今年度に行った研究成果は、国内学会・国際学会等様々な場所で発表した。また、上記①は成果を論文雑誌に投稿中であり、②は論文として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画は、「FeSe薄膜におけるイオン液体中での熱電効果測定を中心とした研究」であった。申請者は上記「研究実績の概要」に報告したように、申請書に記載した研究計画に従って研究を遂行した。主な結果は、FeSe薄膜をチャネル物質とする電気二重層トランジスタを作製し、イオン液体中でFeSe薄膜の熱電効果測定を行ったところ、キャリア数の増加に伴う超伝導転移温度や熱電効果の増大を観測したことである。さらに、本研究では固液界面でに電気化学反応を積極的に利用するが、この反応を起こす場であるイオン液体の分子構造が化学反応に与える影響を調べることができた。29年度の研究計画に含まれている実験を、おおよそスケジュール通りに進めることができたため、本研究の進展具合は「当初の計画どおりに進展している」と考えている。 平成29年度の実験結果の一部はすでに論文として発表することが出来ており、また別の論文一報が投稿中である。さらに、日本物理学会・応用物理学会など国内学会、国際学会、アメリカ物理学会、また研究会、ワークショップにおいて本研究の成果の一部を報告した。
平成30年度の研究は、平成29年に行った実験を関連物質に適用する実験が含まれるが、平成29年度の研究が計画通りに進んだため、スムーズに30年度の研究に移行できる状況である。本年度(30年度)も申請書に従った計画的な研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」で報告したように、平成29年度は順調に研究を行うことができ、これまでのところ計画は予定通りに進行していると考えている。 研究開始当初の計画を簡単に述べると、平成29年度(初年度)は「イオン液体中におけるFeSe薄膜の熱電効果測定を中心とした研究」、平成30年度は29年度の結果を発展させ「FeSe以外の層状カルコゲナイドの熱電効果」を行うものである。平成29年度の研究は、30年度の土台となるものであるが、これまで研究が順調に進行しており、30年度の研究進捗状況・準備状況は予定通りとなっている。 協力体制については、研究代表者と分担者は電子メールや電話での日常的なディスカッションを行う環境にあり、また学会等での出張先では積極的に直接顔をあわせてディスカッションを行った。実験試料の受け渡しや実験の進捗状況の共有などをスムーズに行うことで、計画的に研究を遂行できたものと考えている。平成30年度も研究者間の密な交流を継続する。
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