有効ゲージ場の記述は磁性体中の構造のダイナミクスの記述に役立つ。本年度は、強磁性体反強磁性体の2つの場合に磁壁の運動に伴うスピン波放出の問題をこの観点から理論的に解析した。まず強磁性体の場合に、磁壁構造の周りのゆらぎをゲージ場導出と同じように回転座標系に移って記述し、磁壁の集団座標とスピン波の結合を書き下した。集団座標は従来よく考えられていた磁壁の位置、角度に加えて厚さという変数を新しく取り込んだ。その結果厚さの時間変動モードは強いスピン波放出を伴い、強いオーミックな散逸を生じる過程となっていることがわかった。これに対して位置や角度の時間変化はエネルギーを伴わないゼロモードに近いモードであるためスピン波放出と散逸への寄与は弱い。反強磁性体の場合にはよく知られているようにスピン波は相対論的なモードになっているためにスピン波放出の挙動は大きく変わることが期待される。磁壁周りのゆらぎを解析した結果、スピン波のペア生成/吸収が運動している磁壁が起こす主要な効果であることがわかった。静止状態ではマグノンギャップなどできまる有限エネルギーがスピン波生成には必要でありこのことはペア生成/吸収の確率を表す応答関数が低エネルギー成分を持たないことで表される。これに対して運動している磁壁の場合には応答関数が運動系へのローレンツブーストされたことで低エネルギー成分をもち、このためにスピン波ペア放出過程が可能となることがわかった。このことは運動系における真空の不安定性によるペア生成という意味を持ち、強電場真空中での電子反電子ペア生成(Schwinger効果)の磁性体版となっている。ペア生成効果は磁壁の速度が有効的な光速に近づくにしたがい急激に増大する。スピン波放出による散逸効果も解析した。
|