研究課題/領域番号 |
17H02930
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
常行 真司 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90197749)
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研究分担者 |
藤堂 眞治 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10291337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 物質構造探査 / データ同化 / 第一原理計算 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
高精度スペクトロスコピーや顕微観察手法、オペランド計測手法などの実験・計測手法や、電子論に基づく計算機シミュレーションの著しい発展により、複雑な材料組織や原子配列、精密な電子状態や化学反応の動力学など、これまで手の届かなかった物質・材料に関する詳細な情報が得られるようになりつつある。一方で、複雑な系の構造や物性を定量的に解析し解釈するためには、実験・計測と計算機シミュレーションを適切に組み合わせた、総合的なデータ解析手法が求められている。そこで本研究では、非経験的な電子論に基づく計算機シミュレーションにデータ科学的手法を組み合わせることにより、実測データを活かして物質の精緻な構造解析を可能にする、物性データ同化シミュレーション手法の開発を行う。 データ同化とは、気象予報などの計算機シミュレーションに観測値の時間変化を逐次取り入れることで、より現実に近い答えを出すために用いられる手法である。電子論や原子論に基づくミクロな物性シミュレーションには時間がかかるため、計測データを逐次取り入れることはできないが、ミクロな物性シミュレーションは実空間における局所的な構造や物性の予測を得意とするのに対し、実験は長距離秩序や波数空間でのデータ取得を得意としており、両者は相補的に利用できると期待される。本研究では、時間変化に限定せず、計測データを取り入れることで物性シミュレーションの信頼性を向上させる手法の開発を目指し、これを「物性データ同化シミュレーション」と呼ぶこととする。 計測データを取り入れて物性シミュレーションの信頼性を向上させる「物性データ同化シミュレーション手法」は、将来的には電子状態や格子振動まで含めた広範囲での応用が見込まれるが、本研究課題では具体的ターゲットを物質の構造決定に限定し、回折実験データを用いた物性データ同化の手法開発と実証研究を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子論に立脚した第一原理計算で得られるポテンシャルエネルギーに、回折データの実測値と計算値のずれに対してペナルティを与える関数(ペナルティ関数)を足し合わせた評価関数を定義し、その大局的な最安定点を探査することにより、実空間構造のシミュレーションを得意とする第一原理計算と、波数空間でのデータ(周期性)取得を得意とする実験の、両方の利点を活かした構造探査を実現することを目的としている。そのため前年度に引き続き、ポテンシャルエネルギー計算にVASPによる第一原理計算を用いて、データ同化プログラムを整備し、手法の適用範囲を拡張した。これにより、超高圧下での高温超伝導体として知られるH3Sの結晶構造を、わずか4本のX線回折ピーク情報から探索することに成功した。また、東工大の実験グループと協力し、エレクトライド(Y2C)水素化物であるY2CHx(x=2~3)の未知構造探索に着手し、実験グループが想定していなかったより安定な構造を発見した。 また新たな試みとして、ポテンシャルエネルギーとペナルティ関数とが同じ結晶構造で極小値を取ることを利用した、新しい最適化手法の開発を行った。
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今後の研究の推進方策 |
第一原理分子動力学法を用いたデータ同化プログラムの開発に成功し、未知構造の探索が可能な準備が整ったため、今後は外部の実験グループと連携して、未知構造探索を進める。 また、アモルファスの構造探査への応用を目指し、粉末X線回折の強度情報を利用する手法を改良する。
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