研究課題/領域番号 |
17H02934
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
上妻 幹旺 東京工業大学, 理学院, 教授 (10302837)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子気体顕微鏡 / 光格子 / イッテルビウム / Mott絶縁体相 / レーザー冷却 |
研究実績の概要 |
光の定在波が作り出す微弱なポテンシャル中に量子縮退に至った極低温の原子集団を捕捉した系は「光格子系」と呼ばれ、固体物性を量子的にシミュレートする理想的な系として着目をされている。系のパラメーターを自在に制御できる大自由度量子多体系と称される光格子系だが、実は単一原子あたりのエントロピー S/N を十分に下げることが出来ておらず、高温超伝導に代表される固体物性の重要な課題にアプローチすることが難しいという問題をかかえている。本研究では、適切な原子種、光波長を選定し、レーザーの強度雑音・周波数雑音を極限まで抑圧するとともに、Filter冷却と呼ばれる手法を施すことで、光格子系がもつ上記の問題を解決することを目的としている。光格子中で発現する量子相の中には、各原子が有するエントロピーが空間依存しているものがある(Mott絶縁体相)。高いエントロピーを有する原子を選択的に排除したあと、系が熱平衡に至るのを待つことで、S/N を劇的に小さくすることが可能であり、これを Filter 冷却と呼ぶ。研究の初年度である平成29年度は、Filter 冷却を施すための実験準備を行った。まず、Yb のフェルミオン同位体(173Yb)をレーザーで作られた調和振動子型トラップに捕捉し、蒸発冷却を施すことでフェルミ縮退領域に至らせた。得られた温度は T/TF ~ 0.15 であり、ここで T は系の温度、TF はフェルミ温度をあらわす。得られた極低温フェルミ原子気体を光格子中に導入し、量子気体顕微鏡を用いて原子の実空間分布を観測したところ、Mott絶縁体相に特徴的なMott shellを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究目標は、Filter冷却の対象となるMott絶縁体相をYbのフェルミ同位体を対象として生成することにあった。実際に、Yb原子気体をフェルミ縮退領域に至らせるとともに、Mott絶縁体相の生成・確認にも成功したことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
173Yb の核スピンは I = 5/2 であり、基底状態は6つのスピン成分を有する。高温超伝導と深いかかわりのある2次元フェルミ・ハバード模型の量子シミュレーションを行うためには、電子と同様、スピン成分を2つに制限する必要がある。平成30年度は、レーザー光を用いたスピン偏極を通して173Yb原子気体のスピンを2成分に制限する実験を行う。対象となっているのは電子スピンではなく核スピンであるため、磁場勾配を用いてスピン成分を空間分離・観測することは難しい。そこで、レーザー光を用いたOptical Stern-Gerlach と呼ばれる手法を使って、スピン偏極が実現したか否かを判断する。一方、Filter冷却を実現するには、光格子に適切な形状を有するポテンシャルを重畳する必要がある。この目的を達成するため、デジタルミラーデバイスを用いたポテンシャル形状の操作を実現する。以上の準備をふまえて、平成31年度以降にFilter冷却を行い、本研究の最終目的を達成する予定である。
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