光の定在波が作り出す微弱なポテンシャル中に量子縮退に至った極低温の原子集団を捕捉した系は「光格子系」と呼ばれ、固体物性を量子的にシミュレートする理想的な系として着目をされている。系のパラメーターを自在に制御できる大自由度量子多体系と称される光格子系だが、単一原子あたりのエントロピーS/N を十分に下げることが出来ず、高温超伝導やフラストレーション磁性に代表される固体物性の重要な課題にアプローチが出来ないという本質的な問題をかかえている。本研究では、適切な原子種、光波長を選定し、レーザーの強度雑音・周波数雑音を極限まで抑圧するとともに、Filter冷却を施すことで光格子系がも つこの問題を抜本的に解決することを目指す。昨年度、我々は173Ybフェルミ原子気体がもつ6つの核スピン成分に対して適切な光ポンピングを行うことで、これを2成分にした。蒸発冷却を通して系の温度を低下させフェルミ縮退領域に至らせた後、2次元光格子中に導入することでMott絶縁体相を誘起することに成功した。今年度、我々は、バイアス磁場を印加した状態で異重項間光学遷移を励起することで、片方の核スピン成分のみを選択的に光格子から排除し、残った原子の空間分布から反強磁性相関が発生しているか否かを評価する実験を行った。現時点で反強磁性相関は確認できていないが、これはS/Nが十分に下がっていないことに加え、光格子に重畳した調和振動子型ポテンシャルにより、サイト間エネルギー間隔が超交換相互作用に比べて高くなっていることによる。デジタルミラーデバイス(DMD)を用いて調和振動子型ポテンシャルをキャンセルする光学系を作成し、DMDからの光を光格子に重畳することで、Mott shell半径が増大する様子を確認した。
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