研究課題/領域番号 |
17H02937
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
古川 武 東邦大学, 理学部, 講師 (30435680)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子過程 / 分子蛍光 |
研究実績の概要 |
本研究では、光透過性の高い電極を利用して光検出の効率を高めたイオントラップ装置を新たに開発し、炭素分子負イオンの発する『ポアンカレ蛍光』の分光測定を目指す。ポアンカレ蛍光は宇宙空間のような孤立した環境下にある高振動励起状態の分子が逆内部転換を経て電子励起状態となって放出する蛍光である。本研究にて分子サイズや内部エネルギーの違いによるポアンカレ蛍光の発光スペクトル変化を調べ、逆内部転換のように熱的過程に起因したポアンカレ蛍光の特性について詳細解明を行う。 2018年度は、研究代表者の所属変更に伴い、実験装置などの移設を終えた後、1)製作したレーザーイオン源を用いた炭素分子負イオンの生成、2)光透過四重極RFイオントラップに用いる高周波高電圧電源の製作、3)光検出に用いる高感度CCDカメラの性能評価、について重点的に研究を進めた。1)では炭素分子負イオンを実際にイオン源で生成し、飛行時間質量分析によってポアンカレ蛍光放出が確認されたC4-、C6-を含む多くの炭素分子負イオンが、測定に必要とされるレーザー1ショットあたり10^5個の収量で生成されていることを確認した。2)ではRF信号発生器とトロイダルコアを用いた電圧増幅回路を用い、我々の装置でイオントラップに必要な数MHz、数100Vの高周波電圧生成が可能であることを確認した。3)では使用予定の高感度CCDカメラについてメーカーよりデモ機を借り入れてその性能テストを行って光子検出が可能であることを確認した後、年度末に製品の納品を完了した。 また、静電型イオン蓄積リングを用いて炭素鎖分子負イオンC4-,C6-の冷却過程を詳細に調べ、ポアンカレ蛍光が放出されない低内部エネルギー領域では振動輻射による冷却が主過程であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述「研究実績の概要」で述べた通り、研究代表者の所属変更に伴い装置の移転などを行ったために計画の若干の遅れは生じたものの、全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。イオン源、イオントラップ、光検出系それぞれ装置単体の準備は整いつつあり、その組み上げおよび性能テストを急ぎ進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度である2019年度は、ポアンカレ蛍光測定システム全体の組み上げを完成し、実際にポアンカレ蛍光の分光実験を、C6-イオンを手始めとして遂行したい。そのために、レーザーアブレーションイオン源整備では、2018年度に十分な収量のイオン生成が確認できたC6-について、同時に生成されるイオンとの分離を最適化する。取り出したC6-イオンを透明電極イオントラップに導入し、イオンの閉じ込め実験を上半期に行う。また、閉じ込め実験と並行してイオン源から取り出したC6-イオンが飛行中に放つポアンカレ蛍光の観測実験を、整備した光検出系を用いて行う。 その後、下半期にはイオントラップ入射直前にレーザー光(波長532/355 nm)を照射して高励起状態となったC6-に対して、イオントラップ中でのポアンカレ蛍光観測を行う。得られたポアンカレ蛍光の発光スペクトルについて、理論計算から報告されている電子準位エネルギーと比較するとともにそのスペクトル広がりも考察し、高振動励起状態にある分子の電子準位について詳細な知見を得たい。
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