研究課題
近年、非古典光を用いた量子計測技術の分子科学への応用に向けた機運が高まりつつある。レーザーなど古典光を用いた分光計測に比して卓越した優位性を有する量子計測技術を開発する上で、光の非古典的性質が果たす役割を明確にする必要がある。本年度では、本研究課題が対象とする複雑分子系の動的過程を時間分解計測することを念頭に、量子もつれ光子対の非古典相関を利用する量子分光計測の理論研究に取り組んだ。特に、(1) もつれ光子対の発生方法としてポンプ光にCWレーザーを用いたパラメトリック下方変換を、(2) 光学系としてHong-Ou-Mandel干渉計を用いて、時間分解スペクトルの定式化を行なった。レーザーを用いた分光計測では超短パルスの遅延制御によって時間分解測定を行うが、もつれ光子対の非古典的相関を用いることによって同様の時間分解測定が可能となることを見出した。さらに、もつれ光子対の非古典相関が強い極限においては、本手法で得られるスペクトル情報がフォトンエコーなど非線形光学応答として得られる二次元分光スペクトルの情報に等価であることを示した。すなわち、CW光およびHong-Ou-Mandel干渉計など比較的簡単な光学系を用いることで、複数のレーザーパルスを注意深く制御することが求められるコヒーレント多次元分光法と同等の情報が得られる。このことは、光子対の非古典相関がもたらす量子分光計測の優位性を明確に示しているだけでなく、量子分光計測を展開するうえで非古典光をどのようにデザインするべきかについて重要な指針を提供している。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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