研究課題/領域番号 |
17H02949
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小屋口 剛博 東京大学, 地震研究所, 教授 (80178384)
|
研究分担者 |
鈴木 雄治郎 東京大学, 地震研究所, 准教授 (30392939)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 火砕流 / 数値計算 / 浅水波モデル / 流体力学 / 重力流 |
研究実績の概要 |
爆発的火山噴火において発生する火砕流のダイナミクスは,大気の取り込み,堆積作用など,様々な物理過程の影響を受け,未だ,最大到達距離の決定要因などの基本的問題が解明されていない.物理的なモデル化を困難にする主な原因は,火砕流が,火砕物粒子の堆積作用に関わる底部の高濃度重力流と大気中の大局的ダイナミクスを支配する低濃度重力流によって構成され,さらに,両者が全く異なる長さ(厚さ)スケールを持つことにある.本研究では,この問題を回避するため,高濃度重力流に対しては2次元(2D)浅水波モデル,低濃度重力流に対しては3次元(3D)噴煙モデルを適用し,さらに両者の相互作用を境界条件として考慮することによって,火砕流のダイナミクスと堆積作用を同時に再現する新数値モデルを構築する. 2018年度においては,「1D二層浅水波モデル」の開発を終了し,広範なパラメトリックスタディを行った.その結果,低濃度層から高濃度層への粒子供給率と高濃度層における堆積率の比が火砕流の到達距離の支配要因となるという新知見を得た.この成果については論文としてまとめ,国際誌に投稿した.さらに,開発した1D二層浅水波モデルに対して,他研究機関における室内実験との比較に基づくベンチマークテストを行い,火砕流のように著しい密度勾配をもつ重力流の概要を理解する上で,本研究で採用した二層浅水波モデルが有効であることを確認した.一方,この1D二層浅水波モデルでは,火口から平坦面を拡大する理想的な火砕流のダイナミクスを再現することはできるが,複雑な地形を持つ地表面を拡大する現実の火砕流のダイナミクスを再現することができないことも明らかになった.この問題について,第3段階で開発する2D浅水波3D噴煙結合モデルにおいて,供給源を自由に与える2D高濃度浅水波モデルを開発することが本質的な問題解決に繋がるという見通しを得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では,当初,以下の4段階の中間目標を設けた.(第1段階)1D二層浅水波モデル,2D二層浅水波モデルの実装と低濃度部・高濃度部の相互作用の概要調査を行う.(第2段階)1D浅水波2D噴煙結合モデルによる安定な数値計算手法を確立する.(第3段階)2D浅水波3D噴煙結合モデルを確立する.(第4段階)並列化による大規模数値モデルの実装を行う. 2017年度,2018年度の実績により,第1段階の1D二層浅水波モデルについては,当初計画以上に研究が進展した.一方で, 2018年度に,第1段階の2D二層浅水波モデル開発および第2段階の1D浅水波2D噴煙結合モデルの予備調査を進める中で,第3段階の2D浅水波3D噴煙結合モデルの開発において,供給源を自由に与える2D高濃度浅水波モデルを開発することが本質的な問題解決に繋がるという見通しを得た.そのため,今後は,第2段階の「1D浅水波2D噴煙結合モデルの開発」を,「2D高濃度浅水波モデルの数値計算手法の開発」に変更して研究計画を進めることとする.方針は一部変更するものの,最終目的に対する研究進捗については,概ね計画通りに進んでいるものと判断される.
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度においては,上記の見通しを踏まえ,第3段階の「2D高濃度浅水波モデルの数値計算手法」を開発する.特に,研究代表者は,第3段階で開発する2D浅水波3D噴煙結合モデルを念頭において,供給源を自由に与える2D高濃度浅水波モデルについて重点的に研究を進める.また, 2D浅水波モデルと3D噴煙モデルの結合方法について予備調査を開始する.さらに,既に開発済みの1D二層浅水波モデル対しても,引き続き広範なパラメトリックスタディを行い,その成果を論文として公表する.一方,研究分担者は,第3段階および第4段階で用いる低濃度部のダイナミクスをより精度よく再現する噴煙モデルの開発を進める.
|