爆発的火山噴火で発生する火砕流は,様々な物理過程の影響を受ける混相流であり,未だ,最大到達距離の決定要因などの基本的問題が解明されていない.火砕流は,著しい粒子濃度成層構造を持つことによって特徴づけられ,大局的に,上部の低濃度重力流と底部の高濃度重力流の二層構造で近似される.低濃度重力流は,粒子沈降や取り込まれた空気の熱膨張の影響を強く受けるのに対し,高濃度重力流は,底面における摩擦・堆積・侵食作用に支配される.低濃度重力流と高濃度重力流のダイナミクスを支配する物理過程の特徴的長さスケールが全く異なるため,火砕流全体のダイナミクスを単一の数値モデルによって正確に記述することは非常に難しい.本研究では,この問題を解決するため,高濃度重力流に対しては2次元(2D)浅水波モデル,低濃度重力流に対しては3次元(3D)噴煙モデルを適用し,さらに両者の相互作用(粒子やエネルギーの収支)を境界条件として考慮することによって,火砕流のダイナミクスと堆積作用を同時に再現する新数値モデルを開発した. 2020-2021年度においては,本課題でこれまでに開発した「1D二層浅水波モデル」を用いて,広範なパラメトリックスタディを行い,マグマ噴火・マグマ水蒸気噴火など多様な噴火様式における火砕流の到達距離の支配要因を整理するとともに,他研究機関の室内実験結果に基づく比較検証を行い,二層浅水波モデルの有効性を確認した.また,上記の「1D二層浅水波モデル」を発展させ,高濃度重力流が現実の地形面に沿って拡大する火砕流を再現する「1D-2D二層浅水波モデル」を開発し,火砕流のダイナミクスに対する地形の影響を調べた.さらに,以上の成果をベースとして,最終目標である「2D浅水波・3D噴煙結合モデル」について,実行可能な数値コードを作成し,予察的な結果を得た.
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