研究課題/領域番号 |
17H02951
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武井 康子 東京大学, 地震研究所, 教授 (30323653)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非弾性 / 界面 / フェーズフィールドモデル / プレメルティング |
研究実績の概要 |
本年度は、メルトが非弾性に与える効果を調べる実験を行い、メルトが多結晶体の非弾性に与える影響を定量的に解明した。これにより、ソリダス直下のプレメルティング効果と、ソリダス以上でのメルトの効果を両方含んだ新しい非弾性モデルを確立できた。以上に加え、国際共同研究により、非弾性実験のデータ解析で用いる試料端面の摩擦効果」の補正式を確立できた。
粒界の熱力学モデルであるフェーズフィールドモデルは、現象論的な自由エネルギーを用いている点に限界があることが昨年度の研究からわかった。粒界を扱う物理モデルとして、密度汎関数法に基づく自由エネルギーを用いるフェーズフィールドクリスタルモデルが提案されている。このモデルは、パラメータが現実に測定できる物性に対応している点に大きなメリットがある。フェーズフィールドクリスタルモデルの岩石への適用性を検討した結果、1成分系であっても自由エネルギーが数学的にかなり複雑であり、多成分系の適用は難しいと考えられることがわかった。フェーズフィールドモデルは限界もあるが、これまでの地球科学では考慮されてこなかった「粒界の無秩序化の程度」を陽に含んだ理論的フレームワークとして重要であるとの認識に至った。フェーズフィールドモデルによる界面のモデル化をレビューし、非弾性の実験結果に応用した論文を執筆した。
不純物が多結晶体の非弾性に与える影響を解明するため、製薬会社の協力を得て、岩石アナログ物質として用いるボルネオール試料を再結晶法および再沈殿法によって精錬した。クロマトグラフィーで分析を行い、再結晶法が効率よく不純物を除去することもわかった。出発試料にはロットの違いによる粒成長速度や非弾性特性の大きな違いがあったが、再結晶後の試料にはこれらの物性の違いがないことが確認できた。これは、不純物が粒界物性に大きな影響を与えることが強く示唆される非常に重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
メルトを含んだ試料の非弾性実験は、計画通り順調に進んでおり、沈み込み帯や火山深部などメルトの存在する系に適用できる重要な結果を得ることができた。界面の熱力学モデルについては、他の分野のモデルを紹介し、地球科学的な重要性を解説する論文を公表することができ、順調に進んでいると言える。不純物が非弾性に与える影響については、製薬会社の協力のもと、試料の不純物を除去する精錬を実際に行うことができ、非弾性物性のばらつきを抑えることができるようになった。この事は、当初の計画以上の大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
メルトの効果を含む非弾性モデルの論文公表にむけて、執筆を行う。
界面の熱力学モデルを地球科学物質に応用する。重要な応用として、水や二酸化炭素などの揮発性成分が界面に与える影響がある。これらの成分は岩石と融点が非常に大きく異なり、また非理想性が大きため、非対称な相図になるのが特徴である。物質科学の分野ではそのような非対称な相図への拡張は行われていないため、今後このような方向への拡張を目指し、マントルへの応用を目指す。
再結晶法と再沈殿法で精錬したボルネオール試料の粒成長実験と非弾性実験をさらに行い、再現性の高い粘弾性物性を持ち、粒径制御のできる理想的な実験試料を取得する方法の確立を目指す。
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