研究課題/領域番号 |
17H02959
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
郭 新宇 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10322273)
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研究分担者 |
加 三千宣 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (70448380)
森本 昭彦 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (80301323)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 最終氷期最盛期 / 黒潮 / 東シナ海 / ケラマギャップ / 古気候モデル |
研究実績の概要 |
最終氷期最盛期(LGM)では、氷床の発達により海水準が低下した。また、偏西風と大気海洋間の熱フラックスも変化していた。そのため、当時の黒潮を推定する際は上記の3要素を併せて考慮する必要がある。H29年度はLGMの環境に関する3要素を導入した海洋大循環モデルを用いて、LGM中の黒潮流路や流速を調べ、さらにシミュレーション結果と先行研究の比較を行うことで古海洋分野の個々の研究から得られている断片的な海流像を統合することを試みた。 海洋大循環モデルはJAMSTECで開発された北太平洋海洋大循環モデルを使用した。積分時間は40年間であり、全6ケースの計算を行った。Case1は現代を想定したものであり、Case2はLGMの環境を導入したものである。Case3では海水準低下と偏西風の南下を導入し、熱フラックスの影響を調べた。Case4では先行研究が推測した台湾-与那国島間の陸橋(land-bridge)の影響を調べた。Case5とCase6は風と海水準低下をそれぞれ導入することで、両要素の影響を調べた。海水準低下はモデル内の水深を変化させることで対応した。LGMの風応力と海表面熱フラックスは、古気候モデル(PSL-CM5)のアウトプットを使用した。現代については、NCEPのデータを使用した。 Case1とCase2の黒潮は東シナ海内での流れが異なり、Case2では黒潮の半分はケラマギャップから再循環流として流出していた。日本南岸および黒潮続流域では、Case2の黒潮が複数の分岐流路を取っており、どの流路もCase1より南を流れていた。これらの変化は古海洋学分野の先行研究と概ね一致する。ほかのCaseとの比較から、1)東シナ海の流路変化に海水準低下による海底地形変化が関係すること、2)日本南岸や黒潮続流の南下は、風場と熱フラックスに関連することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算用の海洋大循環モデルが構築でき、さらに6ケースの長時間積分も終えた。また、モデル結果と古海洋分野の先行研究との比較を終え、整合性を取れた計算結果を確認した。さらに、6ケースの計算結果を比較し、黒潮の流速の弱化原因を特定できた。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度、主に1/4度の太平洋モデルを用いて、LGM中の130mの海水準の低下と偏西風の南下に対する黒潮の流路と流速の応答を調べた。H30年度は古気候モデルの不確実性を確認するため、多数の古気候モデルの結果を1/4度太平洋モデルの外力に使用し、40年間の計算より黒潮の流路と流速の変化を調べる。この作業では古気候モデルのバイアスの有無にも注目し、モデル間の平均場のバイアスを最小限に抑えることより海洋モデルの計算精度を向上する。また、LGM時だけではなくて、7000年前を対象とする気候モデルの結果も海洋モデルの外力に利用し、7000年前の海流場を再現する。 1/4度の太平洋モデル以外に、1/12度の北西太平洋モデルも動かし、1/4度の太平洋モデルで見られた黒潮再循環が細かい海底地形への依存性を確認するとともに、黒潮の傾圧構造と地形の相互作用を調べる。さらに、LGM期と7000年前の日本海の計算結果から、対馬暖流の有無より日本海における熱収支、淡水収支、水塊構造、海洋循環の変化を調べる。 200年間隔の連続計算に必要な気候モデル結果を準備する。 日本海南部の若狭湾沖堆積物を用いて、対馬暖流が日本海流入を開始した年代を調査する。そのために、堆積物から浮遊性有孔虫化石を拾い出して放射性炭素年代測定を行う。また、堆積物の表面を蛍光X線分析装置にて分析し、LGM以降の日本海表層環境変化を捉える。
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