本年度は,現実的な金星大気大循環モデルにおける短周期擾乱にフォーカスし,その中で最も卓越する波の構造と成因について調査した.雲層の短周期波動の中で最も卓越する擾乱は東西波数1の7.5日波であった.この7.5日波は,雲上部ではRossby波として出現し,雲底では赤道Kelvin-like波と高緯度Rossby波のペアとして現れる.雲上部では,極向き水平渦熱輸送により帯状平均有効位置エネルギーから渦への変換が起こり,この高度域のRossby波は傾圧不安定による形成・維持が示唆される.雲底では,臨界緯度を横切る水平熱および運動量輸送による帯状平均運動エネルギーと帯状平均有効位置エネルギーから渦への変換が起こるので,赤道Kelvin-like波と高緯度Rossby波の成因として水平シアー不安定(あるいは順圧不安定)と傾圧不安定の共存が示唆される. 雲底中緯度付近では,7.5日波の流線関数や速度ポテンシャルが臨界緯度を横切るような形態で,Kelvin-like波とRossby波が結合する.赤道域の臨界高度付近では(~54 km),赤道Kelvin-like波ではなく,赤道Rossby波が出現する.このように同じ周期・波数の波動は,異なる緯度・高度で,異なる構造をもつ.臨界緯度を挟んで異なる構造をもつ2つの波のペアは、「臨界緯度を横切る流線関数や速度ポテンシャル」や「臨界緯度上の帯状平均場からのエネルギー変換」を介して結合する描像を明らかにした. Venus-like簡略化GCMを開発する中で,サブグリッドスケール水平拡散の重要性について調査した.金星のような条件下での力学的コアの長期時間積分において,水平拡散が強いと,スーパーローテーションの強度が大きくなり,極域の間接循環が弱まる.この強い水平拡散は,鉛直渦運動量輸送収支に影響を与えることが分かった.
|