研究課題/領域番号 |
17H02961
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
高木 征弘 京都産業大学, 理学部, 教授 (00323494)
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研究分担者 |
安藤 紘基 京都産業大学, 理学部, 特別研究員(PD) (00706335)
杉本 憲彦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 准教授 (10402538)
高谷 康太郎 京都産業大学, 理学部, 准教授 (60392966)
佐川 英夫 京都産業大学, 理学部, 准教授 (40526034)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金星大気 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
硫酸ガスの光化学生成と大気循環による水蒸気の下層大気からの供給を考慮した金星硫酸雲物理モデルを開発し,大気大循環モデル (AFES-Venus) に実装した。雲のない状態を初期状態として,T42L60 の解像度(水平方向には球面調和関数の 42 モードで関数展開,鉛直方向には 60 層で差分化)で15地球年ほど数値積分した結果,(1) Imamura and Hashimoto (1998) で指摘された低緯度下部雲層への雲の濃集はほとんどみられなかったが,(2) 極域下部雲層に顕著な濃集がみられた。(1) の違いは Imamura and Hashimoto (1998) が仮定した強い子午面循環に原因があると考えられる。すなわち,彼らのモデルでは低緯度では子午面循環に伴う強い上昇流によって雲粒の落下が妨げられ,下部雲層で雲が濃集する。(2) については現在解析を進めているところであるが,近赤外を用いた地上観測の結果 (e.g., Crisp et al., 1991) や Venus Express の電波掩蔽観測によって得られた硫酸ガスの分布は,極域に雲が濃集していることを示唆しており,こうした観測結果と整合的である。予備的な数値実験によって得られた結果は,地球大気におけるオゾン分布と同様,金星雲分布に対する大気循環の重要性を示唆した結果であると考えられる。 2017年6月に,あかつきのRS観測と全く同じ観測日時に地上サブミリ波望遠鏡(ハワイ・マウナケア山頂に設置された James Clerk Maxwell 望遠鏡)を利用した金星上層大気の観測キャンペーンを実施した。サブミリ波の波長域には金星大気を構成する大気微量成分の吸収線が多数観測できる。解析の初期結果では,あかつきRSによる気温分布とその観測場所をサブミリ波望遠鏡で観測したデータから求めた気温分布との間でよい整合性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の金星雲物理過程研究が鉛直1次元や子午面内の2次元にとどまっていたのに対し,主にモード2とよばれる金星雲の物理モデルを開発し,世界にさきがけて大気大循環モデルに組み込んで数値計算を行った。その結果,高緯度から極域の非常に厚い雲構造の再現に成功し,その形成メカニズムについても研究が進展しており,金星雲分布に対する大気循環の重要性を明らかにすることができた。現在はモード1とよばれる,より小さな粒径分布をもつ雲(硫酸エアロゾル)のモデル化を進めると同時に,CO や SO,OSSO といった金星大気循環解明の鍵となりうる気体成分にも着目し,モデル開発を行っている。また,地上のサブミリ波望遠鏡で観測したデータから求めた気温分布と,あかつきRSで観測された温度との詳細な比較や,サブミリ観測データからの熱圏の風速分布の導出など,詳しい解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
硫酸濃度をモデル中で適切に診断し,モード1およびモード2の金星雲の両方を適切に扱うための改良を行う予定である。また,CO や SO など,観測との直接比較が可能な気体成分のモデル化と,大気大循環モデルへの組み込みを進める。超高解像度 GCM データに基づく重力波解析を進展させ,雲層高度から上下に放射される重力波を適切にパラメタライズ可能な方法を考察する。熱圏の風速・温度分布解明のために,海外の研究機関とも連携しながら,地上観測および観測データの詳細な解析を引き続き継続し,次期連携観測キャンペーンの観測計画の立案を行っていく。
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