研究課題/領域番号 |
17H02962
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
川畑 拓矢 気象庁気象研究所, 気象観測研究部, 主任研究官 (80354447)
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研究分担者 |
上野 玄太 統計数理研究所, モデリング研究系, 教授 (40370093)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | データ同化 / カオス / 非ガウス性 / 積乱雲 / 粒子フィルタ |
研究実績の概要 |
本研究では、気象庁メソスケール非静力学モデルを用いた粒子フィルタ(NHM-RPF)を開発し、積乱雲の発生・発達に関する非線形性・非ガウス性を調査している。H29年度に基礎開発を行い、H30年度に観測システムシミュレーション実験(OSSE)を実施して非線形性・非ガウス性を調査した。R1年度は観測誤差動的推定も併せて詳細に解析し、論文として出版した。 結果、最初に局地前線面の上昇流に非ガウス性がみられ、時間と共に他の要素へ伝搬し、積乱雲が発達したときには周囲の気象場全体が非ガウスとなった。さらに観測誤差動的推定について調べ、積乱雲が発生、移動するにつれて誤差が増大することが分かった。さらにデータ数を増やしていって15倍に達してもRMSEは減少するが、5倍を超えると有効粒子数は3よりも小さくなった。このことはOSSEであるために、PDFの中心付近でフィルタが動作していることを示唆しており、今後、現実観測を用いて調べる。 本研究が対象とする積乱雲スケールにおいては、大規模環境場と小規模な積乱雲との相互作用を適切に扱う必要がある。提案手法によって小規模場の観測データが少なくてもサンプリングエラーが減少し、従来手法より高精度の解析値が得られた。本成果について、論文が出版され、論文賞を受賞した。 令和元年度においては、非ガウス性に注目して、全球を対象とした簡単モデルを用いてLETKFによる10240メンバーのアンサンブル実験を実施した。結果、大きな誤差は主に非線形性が卓越している熱帯域や低気圧の通り道で見られ、このような非線形性は、パラメタリゼーションに存在するスイッチが原因であった。本実験のサブセットとして概ね1000メンバーが非ガウス分布を表現するために必要であると結論づけられた。本結果も論文出版された。 これら粒子フィルタやデータ同化に関して得られた知見についてまとめ、論文として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は実観測データ同化実験の準備を行う計画となっていた。OSSEから進むに当たって、必要な作業としては、観測データの収集とその品質調査、観測誤差動径推定の動作確認とその理解、さらにプログラムの拡張であった。このため、観測データの取得を行い、統計調査によってその品質を調査した。 さらに観測誤差の動的推定について前年度までに実施したOSSE実験を用いて、どのように動作するのか、フィルタの安定動作にどのような影響をもたらすのか詳細に調査し、理解を深めた。さらに実観測データに用いるためにアルゴリズムやプログラムの見直しを行って、準備を終えた。 これらによってほぼ準備が整い、一部実験を開始できている。さらにRPF以外のPFとして、局所粒子フィルタの開発を行い、LETFKとのハイブリッドについても調査を行った。その結果、リサンプリングに工夫をすることでハイブリッドの方が精度が良くなることを確認した。またヒストグラムやモデル予想場について効率よく表示する可視化ソフトを開発し、一部機能が使えるようになった。 これまでに得られた結果のまとめとして査読付き論文3編、知見のまとめとして論文1編を出版し、1件の招待講演、6件の国際学会を含む研究発表を12件、行った。 このように、計画通りに進捗し、さらに途中の成果についても次々と公表しており、順調に進捗していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)実観測データ同化実験を実施する。観測データ: 非ガウス性が最初に対流圏下部で見られたために、GNSS可降水量、地上観測データなどのデータを同化する。ガウス性の流入を確認するために、関東地方をカバーする広さ(OSSEより4倍程度広い)をとる。また上昇流に見られた非ガウス性がモデリングによるものでないことを確認するために 0.5km (OSSEの1/4)とする。さらにLETKFや局所粒子フィルタによる実験を行い、効率的な粒子フィルタを目指す。 (2)同化実験の解析については、開発した可視化ソフトウェアを用いる。OSSE実験と同様の非ガウス性が見られるのかを注目する。 (3)とりまとめる
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