研究課題/領域番号 |
17H02963
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
工藤 玲 気象庁気象研究所, 気候研究部, 主任研究官 (00414508)
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研究分担者 |
岩渕 弘信 東北大学, 理学研究科, 准教授 (80358754)
鷹野 敏明 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (40183058)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 雲物理 / 大気放射 / リモートセンシング |
研究実績の概要 |
本年度は、離散雲の微物理・光学特性推定法の開発と雲の集中観測を計画しており、予定通り実施した。 離散雲の微物理・光学特性推定法について、一次元放射伝達理論に基づいた方法、三次元放射伝達理論を直接用いた方法、三次元放射伝達理論を深層学習モデルに学習させた方法の開発を進めた。一次元放射伝達理論に基づいた方法について、既存の手法を拡張し、分光放射計の輝度観測から、雲の有効半径、光学的厚さ、水と氷の比を推定する手法を開発した。三次元放射伝達理論を直接用いた方法について、三次元放射伝達モデルと進化戦略による逆問題の解法を使って、全天カメラが測定する散乱輝度分布から雲の光学的厚さを推定する手法を開発した。全天カメラの疑似観測データを使ってテストを行い、良好な結果が得られた。三次元放射伝達理論を深層学習モデルに学習させる方法について、カメラの天空画像から視線方向の雲の光学的厚さを推定する深層学習モデルを開発した。高解像度のラージエディシミュレーションによる雲分布を用いて,雲や太陽方向,エアロゾル,地表面の条件を様々に与えて,三次元放射伝達モデルを用いてカメラ画像を大量にシミュレーションした。これを教師データとして深層学習モデルを訓練した。雲の空間構造と三次元放射効果が深層学習によりモデル化され,安定に高精度の推定が可能となった。 千葉大学において、2018年11月に、分光放射計、全天カメラ、日射計、雲レーダによる集中観測を行った。分光放射計とカメラの観測結果から、開発した手法を用いて、観測期間の雲の微物理・光学特性を導出した。さらに、日射計、衛星ひまわりから推定された雲の光学的厚さも合わせ、相互比較検証を行った。現在、比較結果を各手法へ還元するための詳細な解析を進めている。また、雲の鉛直構造を調べるために、同期間の雲レーダのデータを整備した。 以上の成果について国内外の学会等で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、予定通り、離散雲の微物理・光学特性推定法の開発と雲の集中観測を実施した。 離散雲の微物理・光学特性推定法の開発については、一次元放射伝達理論に基づいた方法、三次元放射伝達理論を直接使用した方法、三次元放射伝達理論を深層学習モデルに学習させた方法の開発を進めた。三次元放射伝達理論を直接使用した方法は、対応可能な場面が広いが計算コストが大きい。深層学習モデルに学習させる方法は、対応可能な場面は教師データに依存するが、計算コストが小さい。一次元放射伝達理論に基づいた方法について、分光放射計の輝度観測から、雲の有効半径、光学的厚さ、さらに水と氷の比を推定する手法を開発した。三次元放射伝達理論を直接使用した方法について、三次元放射伝達モデルと進化戦略による逆問題の解法を使って、全天カメラの輝度分布から雲の光学的厚さを推定する手法のプロトタイプを開発した。全天カメラの疑似データを使ったテストでは良好な結果が得られた。深層学習モデルを用いた方法について、高解像度ラージエディシミュレーションによる雲分布を用いて,様々な雲、太陽,エアロゾル,地表面を対象に、三次元放射伝達モデルを用いてカメラ画像を大量にシミュレーションした。これを教師データとして深層学習モデルを訓練し,カメラ画像から雲の光学的厚さを推定するモデルを構築した。そして、積分球と分校応答度測定装置等を用いてカメラの校正を行い,実際に取得した画像から雲光学的厚さを推定した。 千葉大学において、2018年11月に、分光放射計、全天カメラ、日射計、雲レーダによる雲の集中観測を行った。分光放射計とカメラの観測結果から、開発した手法を用いて、観測期間の雲の微物理・光学特性を導出した。さらに、日射計や衛星ひまわりから推定された雲の光学的厚さを含めて、相互比較検証を行った。また、雲の鉛直構造を調べるために、同期間の雲レーダを整備した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、全天カメラから雲の微物理・光学特性を推定する手法の開発を進める。一次元放射伝達に基づいた方法は、概ね完成している。三次元放射伝達理論を直接使用した方法については、次年度の前半中に実際のデータを解析できるようにする。深層学習モデルを用いた方法については、推定精度と使いやすさと汎用性のための改良を行う。これまでよりも広視野のレンズを用いることによる情報量増大と深層学習アーキテクチャの細部の改良により推定精度を改良する。また,これまでに判明した実用上の問題点であるレンズフレアや信号の飽和,障害物等に対して対策を講じ,実用化を目指す。さらに、集中観測によって得られた比較検証の結果を反映させ、推定手法を改良していく。 集中観測は終了したが、一部のカメラと分光放射計、雲レーダについては、千葉大学で秋頃まで継続して観測を続け、データの蓄積を図る。 集中観測期間を中心に、地上日射に対して、離散雲の三次元放射効果が強く出た典型的な事例を抽出する。その後、離散雲の微物理・光学特性の解析、全天カメラが観測した雲の水平分布、雲レーダとライダーによる雲の鉛直分布、地上日射の時系列データを整理し、どのような状況で三次元放射効果が強く出るか調べ、解析結果をまとめる。
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