研究課題
地球バウショックで電子加速が顕著に見られたイベントについて詳細な観測データ解析を行い,理論モデルとの定量的な比較を行った.その結果,ホイッスラー波は電子の散乱を説明するのに十分な強度を持つこと,被加速電子のベキ指数は理論予測と整合的であること,電子フラックスの指数関数的増大から見積もられた電子の散乱強度と電子エネルギースペクトルのカットオフの関係が理論の予測とよく一致すること,が確かめられた.このことから,本研究で提唱している新たな理論モデルによって地球バウショックにおける電子加速過程が矛盾なく説明できると結論付けた.さらに,この理論モデルが予言する加速の最大エネルギーと衝撃波速度の依存性を用いることによって,超新星残骸衝撃波のように光速の~1%に達する速い衝撃波においては,電子を相対論的エネルギーまで加速できることが分かった.相対論的エネルギーに到達した電子はフェルミ加速によってさらなる加速を受ける.これはすなわち,同一のメカニズムで地球バウショックの1-10 keV程度の電子加速と超新星残骸衝撃波における相対論的電子の加速を統一的に説明できることを意味する.さらに,ここで特に低エネルギー電子の散乱に重要な役割を果たすと考えられる高周波のホイッスラー波について詳細な解析を行った.電子加速が顕著なイベントにおいては磁力線と平行・反平行の両方向に伝播する波動が同程度の確率で観測されるのに対して,加速が見られないイベントではどちらか片方向の伝播しか見られない傾向があった.さらに波動強度についても加速が顕著なイベントの方が強いことが分かった.これは共に理論と整合的な結果である.なお,低周波のホイッスラー波の影響についてもテスト粒子計算によって検証しており,~ keV程度まで加速された電子の散乱に重要な役割を果たすことが確かめられた.
2: おおむね順調に進展している
観測との定量的な詳細比較によって理論の実証ができたことは大きな成果であり,順調に研究が進められていると考えている.
観測による理論の実証は,理論モデルをさらに精密なものにし,より精度の高い比較を行うことの動機づけとなった.なぜなら,超新星残骸衝撃波のように観測によって得られる情報が限られた環境への適用には,理論的なアプローチによってパラメータの制約条件を課すことが重要となるためである.したがって,今後は理論モデルのさらなる精密化や,波動の励起過程・飽和強度などについて,数値シミュレーションと観測データを駆使して研究を進めていく.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
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