研究課題/領域番号 |
17H02968
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野澤 悟徳 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (60212130)
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研究分担者 |
小川 泰信 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (00362210)
川原 琢也 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (40273073)
藤原 均 成蹊大学, 理工学部, 教授 (50298741)
水野 亮 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (80212231)
堤 雅基 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (80280535)
斎藤 徳人 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 上級研究員 (90333327)
津田 卓雄 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (90444421)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大気上下結合 / ナトリウムライダー / EISCATレーダー / 北極域大気 / 鉛直風 / 地衡風 / 力のバランス / SSL |
研究実績の概要 |
マルチビームライダー(以下、Naライダー)を中心に、EISCATレーダー、ミリ波分光計、MFレーダー、流星レーダー、5波長フォトメータを用いた精密拠点観測を実施し、またデータ解析を進め、北極域大気上下結合の観測研究を進めた。
2012年10月から2018年2月までに得られた約2700時間分のNaライダーの5方向観測データ(184夜)を解析し、高度80-105 kmにおける温度勾配を導出した。大気温度水平勾配を導出した研究はこれまでほとんどなされていない。平均温度勾配は、高度96km以下では、南向き(0.004 K/km)、それ以上では北向きであった。高度100 km以上の北向き勾配は、2つのEISCATレーダーを用いたMaeda et al. JGR, 2004JA010893, 2005と整合性がある。風速データと大気密度モデルを併用し、気圧傾度力、コリオリ力、粘性力、慣性力を導出し、力のバランスを調べた。2018年1月22日のケースでは、高度95 kmで、ほとんどの時間で、地衡風の関係が成立していた。一方で、2014年11月30日のケースでは、地衡風の関係が満されていなかった。初期的結果として、高度95-100 kmの領域では、約半分の時間帯で、地衡風の関係が成立しないことが分かった。一方で、Na原子が高度方向に特異分布する、Sporadic Sodium Layer (SSL)およびC-type layerについて解析を進めた。C-type layerの結果については、共著論文として、JGRに投稿し、2019年4月に受理された。
新規開発した5波長フォトメータの2017年冬季データを解析し、630 nm発光が多くの場合で、従来言われている時間(約100秒)より格段に早く発光する(427.8 nm とほぼ同時)例を報告し、その原因について議論した(EPSにて出版)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Naライダーへの新受信機システムの導入が遅れたため、「やや遅れている」と評価した。大気上下結合に関する研究は、進んでいる。当初計画では、60 cm望遠鏡を用いた新受信機システムの開発を2018年6月までに終了させ、2018年10月に現地に導入し、これを用いた新観測モードのライダー観測を開始し、Naライダーの鉛直風観測精度の大幅な向上を図る予定であった。しかしながら、2018年2月に発生したNaライダーレーザー故障の原因究明・修理に時間を要した。例年観測開始時に当たる10月に、故障箇所はレーザー発振に不可欠なポッケルスセルの破損(1064 nm および1319 nm両波長のレーザー系)であることが判明した。このことは想定以上に深刻であったため、Naライダーレーザーの修理を第一優先として分担者と作業を進めた。2018年12月上旬に修理が完了し、12月7日からマルチビームライダー観測を再開できた。この段階ですでに冬季観測シーズンに入っている事(さらに時間を要し、観測を妨げる)、またライダーコンテナ周辺に積雪がある事(望遠鏡の搬入が難しい)等のため、新受信機システムの設置は困難と判断し、やむなく2019年度に延期することとした。
これまで取得された約2700時間のNaライダーデータの解析を進めた。特に物質の鉛直輸送に関連すると思われるSporadic Sodium Layer (SSL)の統計解析を進めた。第一段階の解析(2012年10月から2016年3月まで)では、24例のSSLを同定した。現在、SSLの生成と鉛直風の関係、大気波動との関係、オーロラと関係、成層圏突然昇温との関係について吟味している。この研究は、大気上下結合の上でも、プラズマー中性大気結合の上でも重要な研究課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は本研究課題の3年計画の最終年度となる。2019年10月に60 cm望遠鏡を用いた新受信システムを現地に導入し、直ちに鉛直風の高精度観測を開始する。並行して、これまで取得されたデータ解析を進める。
2012年10月から2019年3月までの9年間で得られた約3000時間におよぶNaライダーデータの解析を進める。具体的には、ブラントバイサラ周波数とリチャードソン数の導出を行い、大気安定度をこれまでにないデータベースに基づいて吟味する。この解析をもとに、1)大気に働く力(圧力傾度力、コリオリ力、粘性力、イオンドラッグ)の定量的な評価(力のバランス)、2)半日潮汐波を始めとする大気波動の伝搬・散逸に起因する大気不安定度の調査(下層大気からの影響)、3)オーロラ活動度(5波長フォトメータとの同時観測)と大気擾乱の関係の調査(上方磁気圏からの影響)、等を実施する。EISCATレーダーとの同時観測により、鉛直風観測の発生についてより確証を得る。すなわち、同時観測にて、Naライダー観測のみでなく、EISCATレーダーでも鉛直風が観測されることを確認する。これらを踏まえて、Naライダーにより観測された鉛直風と、背景大気変動との関連性を吟味して、鉛直風の発生条件の解明を試みる。
さらに、ミリ波分光計との同時観測データを調べ、5波長フォトメータ、MFレーダー等との同時観測データを併用し、高エネルギー粒子の中間圏・成層圏への影響(大気上方から下方への影響)についての解明を進める。
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