研究課題
本研究は、有孔虫の殻形成における石灰化の分子機構を明らかにすることを主目的とする。有孔虫は、殻(化石)が地球科学の研究で重用されるだけでなく、単細胞真核生物として生体鉱化作用の初生的な機構を維持している点でも重要性が高い。しかし、有孔虫の石灰化機構は間接的な検証に留まっていた。本研究は、未知の石灰化関連遺伝子を探索し、遺伝子の発現を可視化・定量化して飼育実験で確認し、環境変化に対する遺伝子発現の応答を検証可能とすることを目指している。有孔虫は“殻室”を増やしながら成長する(つまり成長時に新規の殻室形成に石灰化する)特徴に着目し、培養中に殻を成長させる個体(殻形成個体)を確保し、定常状態(殻非形成個体)と比較することによって、石灰化時に発現する遺伝子の同定が可能ではないかと考えた。先行研究から、有孔虫の炭酸塩殻には結晶方位が異なる陶器質とガラス質の系統があり、各々の結晶の析出メカニズムは全く異なることが示唆されている。そのため、石灰化に関連する細胞の物質の細胞内輸送は有孔虫内で多様であると考えられ、本研究では両系統を扱って以下のような実験を行い、結果を出すとともに今後の課題を洗い出した。1. 陶器質とガラス質の有孔虫の培養実験並びに殻形成時の観察を行った。ガラス質の有孔虫では、安定した培養を行うことができ、個体成長に伴う殻の形成等について観察や個体確保ができた。2. ガラス質の有孔虫100個体を用い、RNA抽出方法や精製、断片化、シーケンスの条件検索を行った。3. 2を踏まえ、1個体から同様の行程でシーケンスを行い、十分量のデータを得る実験条件を確立した。4. 3の結果を踏まえ、殻形成時(9個体)と非形成時(3個体)から各々RNAを抽出し、シーケンスを行った。2-4の結果、約57Mbp、約54000のコンティグ配列を得ることができ、約48000個の遺伝子が同定された。
3: やや遅れている
1.有孔虫のような単細胞真核生物は、遺伝子の発現量が少ないため、本研究で取り組んでいるような、殻の形成と非形成時の比較による網羅的発現遺伝子の解析が有効と考えられる。しかし、陶器質の有孔虫の培養がうまく進まず、RNA抽出には至らなかった。2.有孔虫の殻形成等の観察に必要不可欠な顕微鏡システム(カメラシステム)の一部が故障した。修理が困難となり、2018年度に更新した。
1.陶器質の有孔虫について、新規の試料採取を行い、安定的な培養を目指す。2.ガラス質の有孔虫の網羅的発現遺伝子解析を進め、殻形成に係る遺伝子群の同定を行う。3.殻形成に関する遺伝子群から、可視化する遺伝子の候補を検索する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件)
CrystEngComm
巻: 19 ページ: 7191~7196
10.1039/C7CE01870C
Geochemistry, Geophysics, Geosystems
巻: 18 ページ: 3617~3630
10.1002/2017GC007183