研究課題/領域番号 |
17H02981
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡本 敦 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (40422092)
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研究分担者 |
宇野 正起 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (50748150)
清水 浩之 東北大学, 流体科学研究所, 助教 (60610178)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超臨界水熱実験 / 玄武岩 / ざくろ石 / 蛇紋岩 / 水圧破砕 / 離散要素法 / 2次カンラン石 |
研究実績の概要 |
本研究では変成岩のざくろ石などの特徴的な変成鉱物の組織(特にサイズ分布)を機械学習などを用いて解析して、沈み込み帯における変成反応と流体発生・移動のダイナミクスをあきらかにすることを目的としている。本年度は、その礎となる人工的な変成岩の作成実験において、実験装置の開発から、予察的な実験を行うことに成功した。また、累進変成作用に伴う水圧破砕についての組織形成のシミュレーションを行い、すでに国際誌に掲載されている。 実験においては、400C, 30 MPa以上の条件に耐えるチタン製の反応容器を作成し、超臨界流通実験に成功した。玄武岩の粉末を用いて、1ヶ月におよぶ反応実験を行うことで、ざくろ石、緑泥石、角閃石、黒雲母などの代表的な鉱物を含む変成岩を人工的に作成することに成功した。とくに、玄武岩の石基部分において、5ミクロンメートル程度のざくろ石集合体が形成されており、今後、そのサイズ分布を解析する予定である。また、溶液組成の時間変化と流路に沿った反応生成物の変化を明らかにし、それをもとに熱力学的な解析を行ない、同じ対象を解析する場合でも、固体(鉱物間の平衡)を取り扱う方法と、溶液(溶存種の平衡)を扱う際の食い違いを明らかにした。これらの結果を統合しながら、新しい岩石学的アプローチを作っていきたい。また、蛇紋岩の脱水実験をおこない、こちらも蛇紋石とブルー石が同時に分解することでかんらん石ができる反応プロセスを、結晶方位の詳細解析により見出している。ざくろ石が累進変成作用において形成する反応を離散要素法を用いてモデリングして、脱CO2反応よって水圧破砕が起こること、その亀裂の方向は、粒界形状と差応力によって支配され、流体流動の異方性を生み出すことを明らかにした。さらに、天然のざくろ石を含む変成岩試料は野外調査によって進めており、結晶サイズ分布の逆解析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の中心となる達成目標は、超臨界条件に耐えうる流通式実験装置を開発して、玄武岩―水系の実験を実施することであった。耐腐食性の高いTi合金を用いて、シール部分に試行錯誤をすることによって、410C, 35MPaで長期間に耐える実験装置を開発することに成功した。この実験装置をもちいて、玄武岩とはんれい岩の粉末を用いた1ヶ月に及ぶ流通式の実験に成功し、上流部の玄武岩の石基部分から本研究の基礎となるCaに富むざくろ石(5ミクロメートル)の集合体を作成することに成功した。さらに、溶液組成の時間発展データと流路に沿った反応物の空間変化が起こることを明らかにし、熱力学的、統計的な解析を進めている。 天然の変成岩については、三波川帯のエクロジャイト、泥質変成岩のざくろ石を含む試料採取を行い、モンゴルのチャンドマンエクロジャイトと合わせて、結晶サイズ分布の解析に適した試料の準備が進められた。また、固体圧試験機を用いて蛇紋岩の高温高圧反応実験を行い、蛇紋石とブルース石の境界のみに脱水反応が進行して、2次的なカンラン石が形成する様子を観察し、結晶方位や組織の解析を進めている。 脱水に起因する破壊組織について離散要素法を用いたモデリングを行い、三波川帯のメタチャートに含まれるスケルタルざくろ石が脱CO2ガス反応によって破壊を生じてできたこと、また、応力によって水圧破砕の仕方が異なることを明らかにし、国際誌Contributions to Mineralogy and Petrologyに掲載された。 このように、当初計画していた多方面で順調にすすんでいるとともに、ざくろ石作成実験では、溶液の主成分分析を行うことで、内部での反応経路を推定できる可能性が出てきており、岩石形成のカイネティクスと機械学習を結びつける新たな方向性を見出したという点で、当初の予定以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ざくろ石の結晶サイズ分布(CSD)の解析 天然および人工変成岩のざくろ石の結晶サイズ分布の解析を行う。三波川帯のエクロジャイトや泥質変成岩、また、チャンドマン変成帯のエクロジャイトについて、コアを作成し、X線CTで撮影することで、50試料程度のざくろ石のCSDを取得する。 (2)結晶サイズ分布のフォーワードの作成と逆解析手法の構築 既存の結晶サイズ分布のモデルを網羅して、それらのフォーワードモデルを作成して、実装する。また、様々な逆解析手法、交換モンテカルロ法、逐次モンテカルロ法、近似ベイズ計算などを簡単な人工データをもちいて、実装することで、その特徴を理解して、CSDの逆解析に向けた下準備をする。 (3) 溶液組成の主成分分析による玄武岩実験における反応経路の推定 本年度の玄武岩の反応実験の結果をもとに、流通式実験の通過溶液を主成分分析を行うとともに、溶存種の平衡を計算して、各鉱物の飽和指数を計算する。これらを比較し、また、実際の反応物で答え合わせをしながら、溶液変化のみから関与する鉱物の溶解・析出、すなわち、多成分多相系の変成反応における反応経路の抽出を試みる。 (4)蛇紋岩の脱水とそれに伴う2次カンラン石の形成 実験物の解析と、モンゴルのハンターシェルオフィオライトの蛇紋岩を分析し、反応と流体発生・移動についての考察を深めるとともに、流体移動経路である、亀裂形成についてのパターン解析を行う。
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