研究課題
三波川変成帯の関東山地長瀞において、著しく炭酸塩の鉱物脈が発達した蛇紋岩体を見出し、その詳細な解析を行った。熱力学、マスバランス、破壊シミュレーションなどの結果により、この鉱物脈は酸化的なCO2流体が流入することにより、蛇紋岩が分解して水を発生する脱水反応であること、また、破壊は流体圧による水圧破砕というよりも固体の体積収縮による可能性が高いことを示した。これは、沈み込み境界における流体発生プロセスの1つの形態として重要であると考えられる。また、三波川変成帯などで観察される、雁行状配列の鉱物脈(エシェロンベイン)の形成過程について、離散要素法を用いたシミュレーションを行い、流体圧が高くなるにつれて、剪断亀裂から開口亀裂であるエシェロンベインに遷移することを示し、沈み込み帯における流体移動プロセスについての考察を行った。さらに、エクロジャイトなどのざくろ石の組織については、三波川帯のエクロジャイトの他にモンゴルの変成帯も含めて解析を進めており、結晶サイズ分布の解析を行うための情報収集を行っている。玄武岩ー海水の相互作用についての水熱実験を進めた。とくに、海水の成分を抜きながら実験する「ノックアウト海水実験」を考案し実施した。これにより、海水では最も多く含まれるNaClではなくて、Mg成分が重要であること、Mgが含まれている場合には緑泥石ができるが、含まれていない場合は蒸留水と同様に曹長石成分の溶脱などが起こることを明らかにした。これは、海水と海洋底熱水の関係性を考える上で重要であるとともに、変成作用における流体組成の重要性を新たに示したものと言える。これに合わせて、変成作用に起こる鉱物置換反応による空隙形成を評価もすすめた。本研究の進捗状況は、日本地質学会、日本鉱物科学会、地球惑星科学連合大会などにおいて報告しており、また、順次、国際誌への投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
天然の沈み込み帯の蛇紋岩の解析により、炭酸塩化作用に伴う脱水過程の特徴を見出し、その脱水反応過程と組織発達を解析できたことは大きな成果と言える。また、水熱実験により、溶液組成による生成物と元素の移動と固定に関する新しい知見が得られたことも大きい。また、エシェロンベインと流体圧に関する研究、モンゴルのオフィオライトの2次かんらん石の生成に伴う脱水反応についての研究成果は、国際誌に掲載されてた。ただ、ざくろ石などの結晶サイズの分布についての詳細な解析はより進めていく必要がある。以上を総合して、概ね順調に進展していると判断する。
今後は、まず、ざくろ石の結晶サイズ分布のX線CTデータについて解析を進める。フォーワードモデルを作成し、どの生成モデルが妥当であるのかというモデル選択を機械学習を用いて進める。それを組成累帯構造と組み合わせながら、流体発生プロセスの考察を進めていく。また、玄武岩ー海水実験については、出てきた溶液についての主成分分析を行い、地化学平衡モデリングの結果と比較しながら、どのような岩石ー水比に対応するのかというデータ駆動解析を進め、変質・変成作用と海洋底の熱水についての検討を行う。三波川変成帯、また、モンゴルのハンターシェルオフィオライトの蛇紋岩の炭酸塩化に伴う脱水反応、また、変成反応に伴う流体移動経路の形成についてのナノスケールの観察を含めたメカニズムの解明を進める。最終年度であるので、以上のような研究を推進しつつ、沈み込み帯、地殻内部の流体の発生・移動プロセスについてのモデルを構築するとともにその課題も明らかにする。徐々に集まりつつある成果については、速やかに論文化を進めていきたい。
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