研究課題
本研究では、高圧科学において広く利用されている圧力標準物質について、その有効適用範囲を数100 GPaから1 TPaにおよぶサブテラパスカル領域にまで拡張し、極高圧下における圧力スケールを確立することを目的としている。具体的には、複数の圧力標準物質についてダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた高圧発生実験を行い、粉末X線回折法により格子体積の収縮を測定することで、各物質の状態方程式(=圧力スケール)を決定し、圧力標準物質相互の整合性を確認する。平成29年度は、レニウム(Re)と白金(Pt)について同時圧縮実験を行った。これまでレニウムの状態方程式は先行研究間で大きな矛盾があり、例えば約63%まで圧縮されたレニウムが示す圧力値は400 GPa(Anzellini et al. 2014)から600 GPa(Dubrovinsky et al. 2012)までの差があった。このひとつの大きな要因は、数100 GPaのような超高圧条件下で直接測定された実験データが少ないことである。我々は白金を圧力基準として約280 GPaまでの圧縮データを得ることで、レニウムの状態方程式を検証した。この結果、白金自体の様々な状態方程式を考慮しても、上述の約63%まで圧縮されたレニウムが示す圧力値は430-460 GPaの範囲に収まることが分かった。また白金と金(Au)について、約270 GPaまでの圧縮実験を行い、高圧下における格子体積を同時測定した。測定された体積-体積関係を用いて、Yokoo et al. (2009)で報告されている金と白金の状態方程式についてその整合性を確認した。約270 GPaにおいてそれぞれ金と白金の3次のバーチ・マーナハン状態方程式による圧力値を比較すると、金の方が数%程度高い圧力を示した。今後それぞれの物質について応力解析を進めた上で、詳細を議論する。
2: おおむね順調に進展している
上述の通り、レニウム(Re)と白金(Pt)について280 GPaまでの同時圧縮実験を行い、白金を圧力標準とした新しい状態方程式を確立することで、レニウムの状態方程式に関する先行研究間の矛盾について解決することができた。この結果は、Sakai et al. (2018)としてHigh pressure research誌に論文が掲載された。この結果は同時に、先行研究において2段式ダイヤモンドアンビルセルを用いて報告されたレニウムの状態方程式を否定するものでもある。すなわち、2段式ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験においては、試料部における圧力勾配や試料の分布などをしっかりと評価しながら議論しなければならないことを示している。我々は2段式ダイヤモンドアンビルセルに関する技術開発も同時並行的に進めており(※)、これまで400 GPaまでの圧力発生に成功しているが、その実験結果はアンビル先端部に急激な圧力勾配が存在していることを示していた。これに対し我々は新しいアンビル形状を採用することで、圧力勾配を緩和しつつ、最高到達圧力は下げずに、400 GPaにおいて非常にシャープなX線回折ピークを得ることに成功した。今後この技術が本課題の遂行に大きく貢献すると期待される。(※本課題代表者が同じく代表者を務める挑戦的萌芽研究課題。本課題とは相補的な関係にあり、技術開発を主目的としたもの。2017年度に終了。)
本研究課題で中期に予定していた高温での圧力スケール間の整合性に関する実験に関しては、海外グループによって比較的質の良いデータが得られつつある。よって、本研究では我々の得意とする2段式ダイヤモンドアンビルセルの技術を用いた未踏の圧力での状態方程式決定に注力していきたい。現在、我々が開発した2段式ダイヤモンドアンビルセルの技術と放射光施設におけるX線集光技術の改善により、400 GPa領域において格子体積を正確に決定することが可能になっている。本研究では今後この新しい技術を用いて、金や白金などの圧力スケールとして広く利用されている金属に関して、400 GPa領域での状態方程式を確立することを目的とした実験を行う。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
High Pressure Research
巻: - ページ: 1~13
10.1080/08957959.2018.1448082
岩石鉱物科学
巻: 47 ページ: 27~33
10.2465/gkk.180109