研究課題
伊豆小笠原弧においては、北部の伊豆弧の地殻は厚さ30kmにおよび、ほぼ大陸地殻と同等の厚さを持つ。一方、南部の小笠原弧は西之島も含めて薄く、厚さが20 kmに及ばない地殻からなる。「たいりくプロジェクト」においては、大陸を形成する安山岩マグマは地殻の薄い海洋島弧でのみ生成する、つまり、「大陸は海でできる」という仮説の検証を目的としている。2018年6月22日から7月7日にかけて、「たいりくプロジェクト」の一環として、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の深海潜水調査船支援母船「よこすか」と有人潜水調査船「しんかい6500」をもちいた公募研究航海YK18-08が遂行された。場所は西之島の北50㎞に位置し、西之島よりもさらに地殻が薄い土曜海山である。土曜海山の地殻の厚さは15kmである。土曜海山の地形調査をおこなったあと、「しんかい6500」を用いて土曜海山の基底に近い最深斜面の潜航調査を行った。二潜航であったが、6K#1518においては土曜海山の北西斜面(水深2744~1857 m)、6K#1519においては土曜海山の東斜面(水深3091~2225 m)の潜航による地質調査および岩石採取をおこなった。驚くべきことに、沈み込み帯では大変珍しい、アンカラマイトという溶岩が、両地域において広く分布していた。アンカラマイトとは粗粒のカンラン石と単斜輝石結晶がゴロゴロと入っている豆パンのような溶岩である。今後、このアンカラマイトが大陸地殻形成にどのように関係してくるのかを分析・解析により明らかにしていきたい。西之島の調査により、西之島に噴出する安山岩マグマがマントル由来のものであること、薄い地殻の下には低圧のマントルが存在し、そのマントルの部分融解により安山岩マグマが直接生成することを明らかにした。この成果はJAMSTECでプレス発表をおこない、日本地質学会の国際誌 Island Arcにおいて出版された。
2: おおむね順調に進展している
西之島の論文を日本地質学会の国際誌Island Arcにおいて出版した。また、その成果をJAMSTECにおいてプレス発表をおこなった。および論文とリンクして、ビデオアブストラクトを作成した。ビデオアブストラクトは一般の人が研究の内容を西之島のビデオや模式図で見ることができる2分20秒の映像であり、論文の内容を易しく説明し、アウトリーチにも活用できるものである。2018年度には天候にも恵まれ、「たいりくプロジェクト」の新しい調査として、土曜海山における「しんかい6500」の調査をおこなうことができた。土曜海山の最深部において、予想もしなかったアンカラマイト溶岩を多量に採取した。これらの結果は、プレートの沈み込みが始まり、地殻の薄い最初の段階で、さらにマントルウエッジがまだ温度が低く、リソスフェアが厚い段階では、アンカラマイトが噴出する可能性を示唆している。マントルの融解により最初にアンカラマイトマグマが噴出する。マントルウエッジの温度が上がってくると、大陸を形成する安山岩マグマを噴出する。その後の地殻の成長により、最終的に玄武岩マグマが生成するという新しい事実が明らかになってきた。
アンカラマイトの海底火山活動は、沈み込み帯においては非常に希なものであると考えられてきた。しかし、土曜海山の深海部においてアンカラマイト溶岩が大量に採取されたことは、これまでの常識を覆す可能性をもっている。海底火山の最初期にアンカラマイトが噴出し、その活動が、大陸をつくる安山岩溶岩へと変化し、さらに地殻が厚くなると玄武岩溶岩が噴出するという、沈み込み帯のマグマ活動の新しい提案にむけて、今後、土曜海山の分析・解析を続けていきたい。またアンカラマイト溶岩は、沈み込み帯だけではなく、ロードハウ島のような海洋島にも出現する。よってアンカラマイト溶岩の成因は、テクトニックセッティング以外のことにも関係していると考えられる。また地球史におけるアンカラマイトの役割も検討し、地球における大陸の出現とアンカラマイトの関係も追究したいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Island Arc
巻: 1 ページ: 1-20
10.1111/iar.12285
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20181112/
https://vimeo.com/314337129