研究課題
火山岩及びそのマグマ源であるマントルの持つ揮発性成分組成を決定することを目的として、火山岩の斑晶鉱物が内包するメルト包有物の化学分析を行った。本年度は、マントル由来の火山岩として南太平洋のライババエ島に産する海洋島玄武岩を対象とした。玄武岩に含まれるオリビン鉱物斑晶に対して、前年度までに立ち上げたメルト包有物加熱装置を用いて、組成的に均質なガラス質のメルト包有物を作成した。このメルト包有物に含まれる気泡中の二酸化炭素密度測定を、顕微ラマン分光分析技術を用いて測定した。次にメルト包有物のガラス質部分と気泡の体積を、マイクロX線CTスキャンを用いて分析した。さらに、ガラス質部分の揮発性成分、主成分、微量成分、鉛同位体比を、二次イオン質量分析計、電子線プローブ、レーザーアブレーション誘導プラズマ質量分析計を用いて測定した。その結果、塩素に関して重要な発見をした。ライババエ島の海洋島玄武岩には、鉛同位体比で区別される2種類のマグマが存在し、その違いはマグマ源に含まれるマントルを循環する太古代の海洋地殻の寄与量を反映することがこれまでの研究から分かっていたが、その寄与量と塩素量の間に相関があることを見出した。このことは、過去の海洋地殻物質がマントルに沈み込む際に海水の塩素を運搬し、地球表層とマントルの間で大規模な塩素循環を起こしていたことを意味する。海水からマントルへ塩素を運搬する働きは、地球表層の塩素量を調節し、生命の進化にも多大な影響を及ぼしていたことを考察し、学術論文として公表した。また、上記の塩素以外の元素・成分に関する論文と、ラマン分光、マイクロX線CT、二次イオン質量分析計を組み合わせてメルト包有物中の二酸化炭素総量を測定する技術に関する論文を準備した。また、同様の研究を他のテクトニックセッティングに産する玄武岩の研究に応用するために、試料の準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
今年度に計画していた項目はおおむね実施することができた。三年計画の二年目でメルト包有物の均質化と各種局所化学分析をルーチン的に進めていくことが可能となり、その結果最初の分析対象とした南太平洋ライババエ島の海洋島玄武岩のメルト包有物分析を完了することができた。分析データのうち塩素に関する解析を行い、Nature Communications誌上において成果を公表することができた。他の元素・成分のデータを用いた論文と、メルト包有物の総二酸化炭素量を求める新手法に関する論文も準備が進んだ。これらのルーチン化された手法を用いて、他の海洋島玄武岩、島弧玄武岩、海台玄武岩等異なるテクトニックセッティングに産する玄武岩の比較研究を行うための試料準備も順調に進んだ。
海洋島玄武岩、島弧玄武岩、海台玄武岩等異なるテクトニックセッティングに産する玄武岩の比較研究を行うために、これらの玄武岩に含まれるメルト包有物を対象として各種局所分析を進めていく。これらの玄武岩中のメルト包有物試料の準備は進んでおり、研究分担者と分析作業を分業して効率的に測定を進めていく。また、2018年度に実施された航海により採取された海洋島玄武岩試料もあり、この試料も研究に用いるべく試料準備を進める。異なるテクトニックセッティングに産する玄武岩のマグマ源が持つ揮発性成分組成の比較は本研究の重要テーマであり、地球の物質進化と元素循環の観点から、データの解析を進めていく。2019年度は研究計画最終年度であり、成果の公表に重点を置く。メルト包有物を用いた研究は世界でも盛んに行われており、結果の出たものから国際学会の場で発表しつつ国際学術誌への投稿を行っていく。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Nature Communications
巻: 10 ページ: -
doi:10.1038/s41467-018-07955-8
Geochemical Journal
巻: 印刷中 ページ: -
doi:10.2343/geochemj.2.0559
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 115 ページ: 8682-8687
doi:10.1073/pnas.1719570115
Journal of Raman Spectroscopy
巻: 49 ページ: 1776-1781
doi:10.1002/jrs.5461
巻: 52 ページ: 379-383
doi:10.2343/geochemj.2.0523
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20180814/
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20190118/