研究課題
本年度は,ギガバール状態の生成機構のとそのパラメータ計測のため,2種類のアプローチにより実施した.まず高速電子を用いた圧力発生に関しては,昨年度行った実験の詳細の解析をすすめることにより,定量的な評価が可能となった.実験では高速電子の影響を評価するために,様々なレーザー強度および波長の照射条件下での圧力パラメータの計測のほか,電子スペクトル等による電子の発生と吸収計測による系統的なデータセットを得た.実験結果より,高速電子の発生量と圧力増加の比例則が明らかになり,電子の変換効率を考慮した圧力増大の絶対値も矛盾の無いものであった.さらにレーザーパルス波形を変化させて意図的に高速電子を制御することにより,発生する圧力も変化させることが可能であることを証明した.さらに高速電子の発生だけでなく,高速電子を照射する試料の密度も発生圧力に影響を及ぼすことを示唆する結果を得た.もう一つのアプローチとして,超高強度レーザーをナノワイヤーアレイ構造をもつ試料に照射し,そのパルス幅と同程度の時間幅でギガバール領域の状態を生成・観測する実験的研究も開始した.ナノワイヤーの長さがパルス幅×光速に対応するため,超高速・超高時間分解能をもった計測によるメカニズムの解明が必要である.我々はX線自由電子レーザーSACLAを用いて,超高強度・超短パルスレーザー照射条件下のナノワイヤーの挙動を,X線シャドウグラフ計測によって明らかにするための実験を開始した.本年度は8月に実験を実施し,ナノワイヤーアレイ照射条件下におけるシャドウグラフ像の計測に成功した.ナノワイヤーアレイの密度が比較的高かったため,吸収機構の明瞭な観測は出来なかったが,吸収率の違いを示唆する貴重なデータを取得した.
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は予定していた高速電子発生による圧力生成に関するこれまでの実験結果の解析がすすみ,地震の影響でマシンタイムが変更になったことにより追加データ取得は出来なかったものの,圧力増加メカニズムに関する十分な物理的知見を得ることが出来た.高速電子によって増加する圧力は古典的なアブレーションによって得られるものとの比較が容易であり,高速電子の発生量(スペクトルも含む)を実験的に得ることにより,圧力発生の最適化に資する解析が可能になった.これにより,発生する高速電子と試料の密度との相関が得られ,次年度より密度(試料の材質)をパラメータとしてデータ取得を行うことによって,高速電子の発生と吸収それぞれの効果による圧力発生の包括的な理解が可能であると考えられる.またもう一つのギガバール発生方法であるナノワイヤー試料を用いた手法に関しては,本研究改題申請当初の計画には項目として挙がっていなかったものの,実施1年目としては着実な成果が挙がりつつある.X線FELによる超高時間分解計測を駆使することにより,超高強度・超短パルスレーザー照射時のギガバール圧力発生のメカニズムを直接観測できる兆しを得ており,2019年度も引き続きSACLAにおけるマシンタイムが採択されたため,ギガバール圧力生成のメカニズムや高性能化に資する理解がさらに進展すると期待される.
今年度以降は引き続き,2種類の異なる手法によるギガバール発生法とその物理機構の解明を目指し,この出口を探求しつつすすめる.まず,高速電子を用いた高圧力発生法を継続して実施する.今後は特に高速電子のエネルギーと試料密度の関係を中心に,更なる高圧力発生の指針を得るほか,2次元輻射流体シミュレーションコードに高速電子の効果を付加し,圧力発生と伝播に至る詳細な仮定を模擬する予定である.また,本研究の重要な出口の一つとして,レーザー核融合における衝撃波点火方式への貢献を得るべく,上記で得られた結果を基にしたターゲット設計を行う.衝撃波点火方式では球状に圧縮した燃料に0.3ギガバール程度の強い衝撃波駆動が必要であることから,これまで平板実験で得た物理的な知見を最大限適用し,その最適化を図る.ナノワイヤー試料を用いたギガバール圧力発生実験については,試料を改良しつつX線シャドウグラフ計測によるデータ蓄積をすすめ,ナノワイヤー中における加熱ダイナミクスを明らかにする.さらに次年度以降については,X線散乱計測による温度・密度の絶対値計測にトライし,生成するプラズマの定量的評価を行っていく予定である.このナノワイヤーで生成するギガバール圧力の応用として,高輝度X線や電子・粒子線などの発生に資するパラメータ設定を意識し,ナノワイヤー試料の材質依存性などのデータ取得も検討する.
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