研究課題/領域番号 |
17H02998
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
陰山 聡 神戸大学, システム情報学研究科, 教授 (20260052)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 磁気流体力学 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、リング状の磁場を初期条件(流れ場はなし)としたMHD緩和シミュレーションを行ったところ、新しい緩和状態が見つかった。これまでに見出していた緩和状態の流れ場は偶数個の孤立した渦が基本構造であり、磁場はその流れにほぼ平行に位置していた。しかし、今年度見出した新たな緩和状態は、流れ場と磁場の形状が大きく異なっている。その緩和状態では、流れと磁場のエネルギーは別の半球に集中し、ジェット状の流れと磁力線の張力を介してエネルギーを相補的に供給しつつ準定常状態を維持するという興味深い構造がみられる。また、初期条件として剛体回転の流れ場を入れた磁気緩和計算や、初期状態では流れのエネルギーが卓越し微弱な磁場がダイナモによって増幅する緩和現象などを調べた。計算技術の面では、この研究で用いている独自開発のYin-Yang-Zhong格子のうち、Zhong格子部分(カーテシアン格子)のco-array並列化に関する基礎研究を進め、Alfven波の伝播やTaylor-Green vortexを参照解とした非線形解の精度確認を行った。co-arrayを使うことで並列化が容易になり、コードは極めて簡潔になることが確認できた一方、いくつかの課題も明らかとなった。先進的可視化技術に関しては、前年度に引き続き4次元ストリートビュー手法の研究開発を進めた。大きな進捗としては、スーパーコンピュータ上での多視点同時可視化を実現するための「半透膜」的な手法がほぼ完成したことが挙げられる。この手法はシミュレーションプログラムと可視化プログラム(どちらもMPIで並列化されている)を互いの干渉を可能な限り最小化しつつ同時に走らせるためのものである。MPMD (Multiple Program, Multiple Data) 方式で同時実行することでそれを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を開始するに当たり、磁気エネルギーが卓越する初期条件と、運動エネルギーが卓越する初期条件のどちらから開始しても最終的な緩和状態は二つのエネルギーがほぼ等しく、ぞれぞれがなんらかの意味で相補的な緩和状態になると予想していた。前年度までに見出していたtwist flow的な流れ構造とそれに磁力線が巻き付いた磁場構造はその意味では予想とは異なる解であり、どちらも基本的には同一な空間構造をもっている。本年度見出した新たな緩和状態は、流れと磁場が全く異なる構造を持つエネルギー当分配状態であり、当初予想していた解に近い。その構造は、境界に沿った流れが重要な役割を果たしているようである。具体的には、球の中心近くを通過する局在したジェット状の流れが、境界面にあたり、その後、境界に沿って広がる際に周囲の磁力線を引き伸ばすことでダイナモが起こり、磁気エネルギーが生成される。そしてもとのジェット流の出発点に向けて戻る際にダイナモによってい生成された磁場を縮む際にその内部の流体を押し出すことでジェット流を駆動する。シミュレーションで設定した境界が直方体等の形状であったら、このような磁場・流れ場構造は形成されなかったであろう。したがって球という特殊な領域内部での緩和現象に問題を設定した本研究の狙い通りに結果と言える。なお、計算結果を解析するにあたり可視化が大きな課題となることも予想通りであった。この問題の解決のために導入しつつある4次元ストリートビューという先進的な可視化手法の開発も順調に進んでいる。また4次元ストリートビュー手法の入力データとして必要な多視点・同時可視化手法のためのスーパーコンピュータ向け可視化ライブラリの開発も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
現在見つかっている緩和状態は、流れ場と磁場が同じ位置でほぼ平行になっている状態と、流れ場と磁場が別の位置で全く違う構造をもつ状態の二種類である。この二つの構造は初期条件の違いだけで導かれるものであるが、その初期条件の中の何がこのような大きな緩和構造の違いを導いているのか現在のところ全くわかっていない。また、空間的には明らかに異なる構造をもっているこの二つの緩和状態は、何らかの共通する物理的な特徴をもっているはずであるが、そのヒントも今のところ全くつかめていない。この二つの謎を解くことが本研究の最終的な目標実現に向けた具体的な道筋であると考えている。そのために、初期条件の流れ場と磁場の特徴をヘリシティやクロスヘリシティなどの物理量を計画的に変更しながらパラメータサーベイを行い、それぞれの緩和状態を解析することが必須である。しかし、計算規模が大規模で一回のシミュレーションの実行と解析にはかなりの時間がかかるため、パラメータの正しい選択が必須である。結局のところ、緩和過程で起きている現象をMHDの物理としてできるだけ正確かつ直感的に把握することが鍵となる。ただしその難しさは当初想定していた以上のものである。緩和の途中の乱流状態は言うまでもなく、比較的単純な構造を持つ緩和後の自己組織化状態も、その実体を理解するのにかなりの時間が必要である。磁場と流れ場という二つのベクトル場が互いにエネルギーを供給しあいながら準定常状態を保つ状態は、単一のベクトル場の構造の準定常状態の解析とは比較にならないほど難しい。この問題を解決するためにはやはり本研究で進めている先進的な可視化解析手法の完成を急ぐ必要があると考えている。
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