研究課題
本研究では、ナノ粒子薬輸送システム(Drug Delivery System: DDS)によって細胞内に運ばれた抗がん剤分子の細胞内分布を明らかにし、さらにDNAやミトコンドリアなどの生体分子とどのように相互作用するのかを解明し、その結果から薬効メカニズムを明らかにすることを目的としている。初年度は、直径100~150nm、ポーラスサイズ約5nmのmSiO2粒子合成し、抗癌剤(DOX)を最大限内包させる条件を見出した。また、表面をカチオン性高分子で修飾した後、肺がん細胞をターゲットするリガンドをさらに加えた。これは提案している「ナノ粒子のエンドソームからの脱出と、特定のがん細胞へのターゲット」を目指したものである。作成したDDS粒子の細胞への取り込みから、細胞内での挙動を光学顕微鏡によって追跡した。その結果、健康な細胞には粒子は取り込まれないが、肺がん細胞に選択的に取り込まれることを確認した。また、カチオン性高分子で修飾することにより、DDS粒子がリソソームから抜け出していることを示唆する結果が得られた。また、作成したDDSの効果は非常に高いことを細胞生存率を測定することによって確認した(課題A-1)。細胞内での抗がん剤分子のDDS粒子からの徐放およびDNAとの相互作用を解析するための、「単一細胞内ナノワイヤー増強ラマン散乱測定」に向けた装置の開発を行った。本装置を用いて、細胞内に取り込まれた抗がん剤分子の増強ラマン散乱スペクトルの検出に成功した(課題B)。
2: おおむね順調に進展している
「メソポーラスシリカナノ粒子薬輸送システム」(課題A-1)の作成、及びその表面修飾を行った結果、マイスストーンである「特定のがん細胞への選択的な薬輸送」、「リソソームからの脱出」、「高効率な薬輸送システム」を達成した。細胞内に取り込まれた薬輸送システムを光学顕微鏡により追跡することにより、細胞内挙動の追跡に成功した(論文投稿中)。また、「細胞内での薬分子-生体分子間相互作用のナノワイヤー増強ラマンによる検出」(課題C)の達成に向けた細胞内ナノワイヤー増強ラマン測定装置の構築を行い、細胞内での増強ラマン散乱スペクトルの検出を可能にした(課題B)。本装置を用いて、細胞核内から細胞核内における少量の抗がん剤分子の増強ラマン測定にも世界で初めて成功した。
ナノ粒子薬輸送システムの細胞内挙動の更なる詳細を明らかにするため、蛍光性メソポーラスシリカナノ粒子を作成し、蛍光顕微鏡を用いて高感度にかつ高空間分解能で時系列検出を行う。蛍光顕微鏡を用いることで、ナノ粒子のエンドソーム脱出の可能性を示唆したが、更に他の手法(具体的には電子顕微鏡)を用いて、エンドソーム脱出の確かな証拠を得る。また、細胞内増強ラマン測定を用いて、抗がん剤分子と細胞内物質との相互作用を議論する(課題C)。また、 「SN-38二量体結晶ナノ粒子の作成および表面修飾」(課題A-2)を行い、細胞内への取り込み、抗がん特性の評価を初年度に開発した顕微鏡を用いて行う。
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