研究課題/領域番号 |
17H03003
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
雲林院 宏 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (40519352)
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研究分担者 |
猪瀬 朋子 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (10772296)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬輸送システム / 単一細胞解析 / 増強ラマン散乱 / 単一細胞内視鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノ粒子薬輸送システム(Drug Delivery System: DDS)によって細胞内に運ばれた抗がん剤分子の細胞内分布を明らかにし、さらにDNAやミトコンドリアなどの生体分子とどのように相互作用するのかを解明し、その結果から薬効メカニズムを明らかにすることを目的としている。初年度は、直径100~150nm、ポーラスサイズ約5nmのmSiO2粒子合成し、抗癌剤(DOX)を最大限内包させる条件を見出した。また、表面をカチオン性高分子で修飾した後、肺がん細胞をターゲットするリガンドをさらに加えた。これは提案している「ナノ粒子のエンドソームからの脱出と、特定のがん細胞へのターゲット」を目指したものである。 「メソポーラスシリカナノ粒子薬輸送システム」(課題A-1)の作成、及びその表面修飾を行った。表面就職にポリエチレンイミン(PEI)という高分子を利用することで、本事業のマイスストーンである「特定のがん細胞への選択的な薬輸送」、「リソソームからの脱出」、「高効率な薬輸送システム」を達成した。細胞内に取り込まれた薬輸送システムを光学顕微鏡及び透過型電子顕微鏡により追跡することにより、細胞内挙動の追跡に成功した(Sci. Rep., 2019, 9, 2666. )。更に、「細胞内での薬分子-生体分子間相互作用のナノワイヤー増強ラマンによる検出」(課題C)の達成に向けた細胞内ナノワイヤー増強ラマン測定装置の構築を行い、細胞内での増強ラマン散乱スペクトルの検出を可能にした(課題B)。本装置を用いて、抗がん剤投与後、数時間程度では、細胞内に抗がん剤が取り込まれているにもかかわらず、DNAと相互作用している抗がん剤分子はほとんどなく、24時間程度経つと、多くの抗がん剤分子がDNAの塩基対間に入り込んで抗がん特性を発揮することを示す増強ラマン情報が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正または負に帯電した高分子リガンドを交互に薬輸送システム粒子に巻いていくLayer-by-Layerという非常に簡便で大量生産の可能な方法を提案し、本事業の目的である「特定のがん細胞への選択的な薬輸送」、「リソソームからの脱出」、「高効率な薬輸送システム」(課題A)を達成した。課題Bの単一細胞レベルでの増強ラマン散乱測定システムの構築も完了した(課題B)。「細胞内での薬分子-生体分子間相互作用のナノワイヤー増強ラマンによる検出」(課題C)は現在進行中であるが、単一細胞レベルでの薬ー生体分子相互作用の検出が可能であることを明らかにした。現在、本手法を一般化するための解析法開発を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内での薬分子-生体分子間相互作用のナノワイヤー増強ラマンによる検出」(課題C)を、他の薬輸送システムにも適用できるよう、解析方法の確立を目指す。まずDNA塩基対をターゲットとした抗がん剤分子を用いた手法の確立を行う。具体的には、抗がん剤分子をがん細胞に与え、24時間後、DNAを取り出す。そのDNAの増強ラマンを測定し、薬を与えていない細胞から取り出したDNAの増強ラマンと比較する。これにより、抗がん剤ーDNAコンプレックスの増強ラマン信号の同定を行う。その後、薬輸送システムで抗がん剤分子を与えた細胞の核内からの増強ラマンを細胞が生きた状態で検出し、上記のリファレンススペクトルと比較する。(この解析を可能とするプログラムは既に作成済である。)この解析を「時系列」で行うことにより、抗がん剤分子と生体内物質の相互作用の「時系列変化」を追従する。
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