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2019 年度 実績報告書

光駆動型内向きプロトンポンプの輸送メカニズム解明とオプトジェネティクスへの応用

研究課題

研究課題/領域番号 17H03007
研究機関東京大学

研究代表者

井上 圭一  東京大学, 物性研究所, 准教授 (90467001)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワードロドプシン / プロトンポンプ / オプトジェネティクス / レーザー分光 / レチナール
研究実績の概要

2019年度は引き続き本研究の主な研究対象である、光駆動内向きH+ポンプ(PoXeR)を中心とした各種微生物型ロドプシン分子について、機能解析や分光測定などを行い、分子機能や機能発現メカニズムについて研究を行った。またイスラエル工科大学およびチェコ科学アカデミーのグループとの共同研究によって、アスガルド古細菌より新たに見つかったシゾロドプシン(SzR)がPoXeRよりもさらに輸送効率の高い、光駆動内向きH+ポンプであることを明らかにした。アスガルド古細菌は真核生物の祖先である原核生物に、最も近い古細菌であるとして注目されているが、本研究で初めてアスガルド古細菌が光エネルギーを使って細胞内にH+を取り込むためにSzRを利用していることを明らかとした。
そして主に分光計測や変異体を用いたイオン輸送活性計測によって、内向きH+輸送にシッフ塩基のH+が関わり、さらにタンパク質内部でのH+移動に重要な残基の決定に成功した。また進化的に離れているにも関わらず、三量体構造や荷電アミノ酸の分布、光反応中間体のダイナミクスなど多くの点でSzRとPoXeRの間に共通した特徴があることを見出し、同じ内向きH+ポンプ機能を達成するために、分子レベルでの収斂進化が起こっていることを示唆する結果を得た。そしてこれらの知見をSci. Adv.誌に報告した。
その他PoXeRを含めた多くのロドプシンの吸収を長波長化できるアミノ酸変異法を見出し、Nat. Commun.誌に報告した。この技術は今後長波長吸収型のオプトジェネティクスツール開発において、有用な技術となる事が期待される。また2018年度に報告したヘリオロドプシン(HeR)の結晶構造を新たにNature誌に報告した。これらを含め2019年度は本研究課題によって得られた研究成果を主に8報の論文と13件の招待講演として発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2019年度は新たにPoXeRとは進化的に独立した内向きH+ポンプ型ロドプシンであるSzRを報告し、さらにそれらの輸送機構の多様性について明らかにするなど、当初の計画以上に内向きH+ポンプについてのメカニズム研究の進展がみられた。さらにPoXeRを含む多くのロドプシンで、5番目の膜貫通ヘリックスに保存されたプロリン残基を変異することで、イオン輸送活性を損なわずに吸収波長を長波長化できることを見出した。これによりPoXeRなどをもとにした、新たなオプトジェネティクスツールの開発が期待される。
その他、2018年度に報告したHeRについて、新たにX線結晶構造解析による三次元構造の解明に成功した。その中で当初予想されていなかった、外界とタンパク質内部のレチナール結合ポケットをつなぐ横穴構造が存在することを見出した。これについてさらに生化学的な実験によりHeR内部へのレチナールの結合時において、外界からのレチナールがこの横穴構造を通ってタンパク質内部に結合することを明らかにした。2018年度にHeRを持つ生物種の大部分はゲノム上にレチナール合成酵素を持たないことを報告したが、今回の結果は外界に存在するレチナールを自発的に捉えることでHeRが光受容機能を獲得できることを示唆しており、HeRの分子構造の生理学的な役割についても知見を得ることができた。
また2019年度はオプトジェネティクスツールとしての利用が行われている、Gloeobacterロドプシンについて新たに三次元結晶構造解析に成功した一方で、多くのロドプシンで機能に重要な、3番目の膜貫通ヘリックスのアミノ酸配列が他と大きく異なるTATロドプシンが、光励起後マイクロ秒以内に始状態に戻るという新奇なフォトサイクルを示すという知見も得た。この様に内向きプロトンポンプだけでなく、多くのロドプシンの研究において当初の計画以上の進展が見られた。

今後の研究の推進方策

2019年度の研究によりPoXeRやSzRに関して、その光駆動内向きプロトンポンプ機能を達成するメカニズムについて多くの知見を得ることに成功した。今後はさらに他の生物種由来のXeRやSzRについても輸送過程の研究を行い、既知の分子との共通点や相違点について明らかにすることで、より本質的なメカニズムの理解に取り組む。一方SzRについては得られている構造情報が少ないことから、より詳細な分子構造についての知見を得るための研究を実施する。そして異なる外部環境下や、アミノ酸変異体の光反応ダイナミクスや構造情報を調べることで、SzRの輸送メカニズムに対するより詳細な知見を得る。
さらに上記の分子の中から、H+の輸送活性が高いものについては、ホ乳類細胞に導入し、オプトジェネティクスツールとしての有用性を評価する。特に現在ツール開発が遅れているシナプス小胞やミトコンドリアにターゲティングした分子を作製することで、これらの細胞小器官選択的なH+濃度勾配の光制御技術の実現に挑む。XeRやSzRについて、ホ乳類細胞中でも安定的にタンパク質が発現され、光依存的なイオン輸送活性を示すことはすでに実験から明らかとしているが、細胞小器官へのターゲティング方法については確立されていない。そこで2020年度においてはシグナル配列を含めた遺伝子コンストラクトの構築を網羅的に検討し、応用に資する小器官への高い移行効率を示す分子の実現を目指す。
その他2018年度、2019年度において得られた機械学習法や選択的アミノ酸変異による、吸収波長制御技術のさらなる高度化を目指した研究を行う。さらに量子化学計算にもとづいた、レチナールの長波長吸収化を意図したアミノ酸改変体の論理的デザインを行い、これらのアプローチを統合することで、長波長光に対してこれまでになく高い応答能を持つ分子の実現を目指した研究を行っていく。

  • 研究成果

    (37件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 2件、 招待講演 13件) 備考 (4件)

  • [国際共同研究] イスラエル工科大学(イスラエル)

    • 国名
      イスラエル
    • 外国機関名
      イスラエル工科大学
  • [国際共同研究] シエナ大学(イタリア)

    • 国名
      イタリア
    • 外国機関名
      シエナ大学
  • [国際共同研究] トロント大学(カナダ)

    • 国名
      カナダ
    • 外国機関名
      トロント大学
  • [国際共同研究] チェコ科学アカデミー(チェコ)

    • 国名
      チェコ
    • 外国機関名
      チェコ科学アカデミー
  • [国際共同研究] ボーリング・グリーン州立大学(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ボーリング・グリーン州立大学
  • [雑誌論文] Infrared spectroscopic analysis on structural changes around the protonated Schiff base upon retinal isomerization in light-driven sodium pump KR22020

    • 著者名/発表者名
      Sahoko Tomida, Shota Ito, Tomoya Mato, Yuji Furutani, Keiichi Inoue, Hideki Kandori*
    • 雑誌名

      Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Bioenergetics

      巻: 1861 ページ: -

    • DOI

      10.1016/j.bbabio.2020.148190

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Schizorhodopsins: A Novel Family of Rhodopsins from Asgard archaea that Function as Light-Driven Inward H+ Pumps2020

    • 著者名/発表者名
      Keiichi Inoue*, Satoshi P. Tsunoda, Manish Singh, Sahoko Tomida, Shoko Hososhima, Masae Konno, Ryoko Nakamura, Hiroki Watanabe, Paul-Adrian Bulzu, Horia L. Banciu, Adrian-Stefan Andrei, Takayuki Uchihashi, Rohit Ghai, Oded Beja, Hideki Kandori*
    • 雑誌名

      Science Advances

      巻: 6 ページ: -

    • DOI

      10.1126/sciadv.aaz2441

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Red-shifting Mutation of Light-driven Sodium Pump Rhodopsin2019

    • 著者名/発表者名
      Keiichi Inoue, Maria del Carmen Marin, Sahoko Tomida, Ryoko Nakamura, Yuta Nakajima, Massimo Olivucci, Hideki Kandori*
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 10 ページ: -

    • DOI

      10.1038/s41467-019-10000-x

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Engineered Functional Recovery of Microbial Rhodopsin without Retinal-Binding Lysine2019

    • 著者名/発表者名
      Yumeka Yamauchi, Masae Konno, Daichi Yamada, Kei Yura, Keiichi Inoue, Oded Beja, Hideki Kandori*
    • 雑誌名

      Photochemistry and Photobiology

      巻: 95 ページ: 1116-1121

    • DOI

      10.1111/php.13114

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] X-ray Crystallographic Structure and Oligomerization of Gloeobacter Rhodopsin2019

    • 著者名/発表者名
      Takefumi Morizumi†, Wei-Lin Ou†, Ned Van Eps, Keiichi Inoue, Hideki Kandori, Leonid S. Brown, Oliver P. Ernst* (†: Equally contributed)
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 9 ページ: -

    • DOI

      10.1111/php.13114

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Unique Photochemistry Observed in a New Microbial Rhodopsin2019

    • 著者名/発表者名
      Chihiro Kataoka, Keiichi Inoue, Kota Katayama, Oded Beja, Hideki Kandori*
    • 雑誌名

      Journal of Physical Chemistry Letters

      巻: 10 ページ: 5117-5121

    • DOI

      10.1021/acs.jpclett.9b01957

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Crystal Structure of Heliorhodopsin2019

    • 著者名/発表者名
      W. Shihoya, K. Inoue, M. Singh, M. Konno, S. Hososhima, K. Yamashita, K. Ikeda, A. Higuchi, T. Izume, S. Okazaki, M. Hashimoto, R. Mizutori, S. Tomida, Y. Yamauchi, R. A.-Yoshizumi, K. Katayama, S. P. Tsunoda, M. Shibata, Y. Furutani, A. Pushkarev, Oded Beja, T. Uchihashi, H. Kandori*, O. Nureki*
    • 雑誌名

      Nature

      巻: 574 ページ: 132-136

    • DOI

      10.1038/s41586-019-1604-6

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Allosteric Communication to the Retinal Chromophore upon Ion Binding in a Light-driven Sodium Ion Pumping Rhodopsin2019

    • 著者名/発表者名
      Akihiro Otomo, Misao Mizuno, Keiichi Inoue, Hideki Kandori, Yasuhisa Mizutani*
    • 雑誌名

      Biochemistry

      巻: 59 ページ: 520-529

    • DOI

      10.1021/acs.biochem.9b01062

    • 査読あり
  • [学会発表] Photobiology and Photochemistry of Microbial Rhodopsins2020

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      2019年度ExCELLS若手リトリート
    • 招待講演
  • [学会発表] イオン輸送型ロドプシンのチャネル/ポンプ機能スイッチング2020

    • 著者名/発表者名
      長坂勇次郎、細島頌子、井上圭一、神取秀樹、八尾寛
    • 学会等名
      第9回日本生物物理学会関東支部会
  • [学会発表] 新奇な微生物型ロドプシンの光機能およびその光反応メカニズム2020

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      第2回晝間輝夫光科学賞・令和元年度研究助成金贈呈式
    • 招待講演
  • [学会発表] ヘリオロドプシンの構造生物学的および物理化学的研究2020

    • 著者名/発表者名
      志甫谷渉、○井上圭一、Manish Singh、今野雅恵、細島頌子、山下恵太朗、池田健人、樋口昌光、岡崎早恵、井爪珠希、橋本真典、水鳥律、富田紗穂子、山内夢叶、吉住玲、片山耕大、角田聡、柴田幹大、古谷祐詞、Alina Pushkarev、Oded Beja、内橋貴之、神取秀樹、濡木理
    • 学会等名
      日本化学会 第100春季年会 (2020)
  • [学会発表] 新規生体分子ツール開発に向けた機械学習法の応用2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      第16回AMO討論会「統計的機械学習が拓く新たな科学の地平線」
    • 招待講演
  • [学会発表] 新奇ロドプシンファミリーSchizorhodopsin (SzR)による光駆動内向きプロトン輸送2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一、角田聡、Manish Singh、今野雅恵、富田紗穂子、中村良子、渡辺大輝、内橋貴之、Rohit Ghai、Oded Beja、神取秀樹
    • 学会等名
      第46回生体分子科学討論会
  • [学会発表] Schizorhodopsinの光駆動内向きプロトン輸送とその分子メカニズム2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一、角田聡、Manish Singh、今野雅恵、富田紗穂子、細島頌子、中村良子、渡辺大輝、内橋貴之、Rohit Ghai、Oded Beja、神取秀樹
    • 学会等名
      ISSPワークショップ「レチナールタンパク質の光機能発現の物理と化学」
  • [学会発表] 光受容型膜タンパク質微生物型ロドプシンの多様な機能メカニズムと内部結合水2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      第1回新世代研究所(ATI)水和ナノ構造研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] 光エネルギーで働く微生物型ロドプシンの新世界2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      群馬大学理工学研究院大学院セミナー
  • [学会発表] 微生物の持つ光機能性膜タンパク質ロドプシンの多様性とオプトジェネティクスの拡がり2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      超スマート社会の構築に繋がる革新的材料創出に向けた光・量子ビーム応用技術調査専門委員会
    • 招待講演
  • [学会発表] ヘリオロドプシンとシゾロドプシン:2つの新奇光受容膜タンパク質ファミリーの光反応ダイナミクス2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一、Oded Beja、神取秀樹
    • 学会等名
      第13回分子科学討論会
  • [学会発表] 細菌や古細菌の持つ微生物型ロドプシンの光駆動プロトン輸送機構の多様性2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      第92回生化学会大会
    • 招待講演
  • [学会発表] 急速に拡大する微生物型ロドプシンワールド2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      第57回日本生物物理学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] 分子の構造とメカニズムから学ぶ、光受容膜タンパク質ロドプシンのデザイン2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      筑波大プレ戦略研究会「生命から学ぶ」
    • 招待講演
  • [学会発表] 光受容膜タンパク質微生物型ロドプシンの新地平:ヘリオロドプシンの発見と展開2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      日本生物物理学会北海道支部講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] Spectroscopic and structural studies on new types of rhodopsins: Heliorhodopsin and schizorhodopsin2019

    • 著者名/発表者名
      Keiichi Inoue
    • 学会等名
      Indo-Japan workshop Frontiers in Molecular Spectroscopy_From Fundamentals to Applications in Chemistry and Biology
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 2つの新奇ロドプシン、ヘリオロドプシンとシゾロドプシンについて2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一、Oded Beja、神取秀樹
    • 学会等名
      基生研研究会「異分野融合による次世代光生物学研究会」
  • [学会発表] Discovery and functional analysis of novel retinal proteins2019

    • 著者名/発表者名
      Keiichi Inoue
    • 学会等名
      Millennium Science Forum
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 研究室の立ち上げ秘話・大学編 ~東京大学物性研究所に着任して~2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      日本生体エネルギー研究会 第45回討論会
    • 招待講演
  • [学会発表] 微生物型ロドプシンの光機能とその分子メカニズム2019

    • 著者名/発表者名
      井上圭一
    • 学会等名
      第3回先端光機能計測研究会
    • 招待講演
  • [備考] 東京大学物性研究所・井上研究室

    • URL

      https://inoue.issp.u-tokyo.ac.jp/

  • [備考] 真核生物の祖先に最も近縁なアスガルド古細菌の持つ、 新しい光受容タンパク質の機能を解明

    • URL

      http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=10358

  • [備考] 新型の光応答性タンパク質であるヘリオロドプシンの構造を解明

    • URL

      http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=8768

  • [備考] 光でイオンを輸送するタンパク質、ロドプシンの吸収波長の長波長化に成功

    • URL

      http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=8101

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公開日: 2021-01-27  

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