研究課題/領域番号 |
17H03009
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 啓文 京都大学, 工学研究科, 教授 (70290905)
|
研究分担者 |
井内 哲 名古屋大学, 情報学研究科, 助教 (50535060)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 量子化学 / モデルハミルトニアン / 遷移金属錯体 / 液体の統計力学 |
研究実績の概要 |
本年度の活動で得られた成果の一部は以下の通りである。 (1)前年度に引き続き、かご型球状錯体MnL2n(n=2から12)に対して量子力学モデル(QMHM)による計算について検討を行なった。特に適切な精度で安定性を議論するために一般化ボルンモデルに基づく溶媒和効果をも含めたエネルギー勾配法が必要であり、同法を開発したことで現実の系におけるかご型球状錯体の相対的安定性を自由エネルギーに基づいて議論することが可能となった。 (2)ピンサー型配位子を有するRu錯体による水の分解反応を対象として、量子化学計算とbasin-hoppingやdoubly nudged elastic band法を組み合わせて広域的な構造探索を行い、200程度の安定構造、遷移状態構造を決定した。エネルギー地形理論の観点から、この触媒反応系は階層構造を有しており、これらの多数の準安定構造間の複雑な転移として反応過程を捉えられることを示した。この研究は既に学術論文として取りまとめ投稿済であり、査読段階にある。 (3)新しく開発したナノキューブの粗視化モデルに基づく自己集合過程の解析について、学術論文としてとりまとめ発表した。 (4)分子の電子状態を記述する上で、実験との直接的な比較を行いやすい物理量を対象とした方法論の開発に取り組み、溶媒和に伴う電子状態の変化をより定量的に議論できる基盤整備を行った。具体的にはNMR化学シフト(磁気遮蔽)に関してRISM-SCF-SEDD法に基づいて決定する新しい理論の開発に成功した。水や様々な溶媒中の分子、QM/MM法による報告があるジアジン類について計算を行い、実験結果とも良い一致が得られた。 (5)前年度に引き続き、液体の静的構造に着目し古典的な密度汎関数理論の構築に取り組んだ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、(A) 物理化学的に見通しの良い、分子の電子状態を記述する量子化学の方法論、(B) 溶媒和や、拡散に代表される物質輸送現象を解析的・代数的に扱う統計力学理論を二つの柱として掲げている。前者においては、個別の系の性質を精査しながら、量子力学モデル(QMHM)や汎用の量子化学計算を適用している。今年度はピンサー型配位子を有するRu錯体系に対する計算を行い学術論文としてまとめ投稿した。またRISM-SCF-SEDD法に基づくNMR化学シフトの理論開発についても順調に進捗している。後者に関しては、粗視化モデルを用いた自己集合過程の解析を完了した。特徴的な構造についてクラスター分析を行い、状態遷移ネットワークのダイアグラムを作成した。一方で、液体構造を精度よく計算するためにより第一原理的な立場から方法論の構築に取り組んでいるが、従来法からの改善は期待ほど顕著でないことが分かってきた。
|
今後の研究の推進方策 |
前項の(A)については、これまで取り組んできた量子力学モデル(QMHM)を用いて典型元素への展開を試みる。また本年度で行った金属錯体による触媒反応の解析について別の系への展開も検討する。さらに分子の電子状態を解析する方法として、今年度から着手した分子軌道法で得られた結果を原子価結合法にマッピングする方法の考察を進める。(B)については、古典的密度汎関数理論に基づく研究を継続するとともに、MCMOZ法など他の分子性液体の統計力学理論に対しても検討する。
|