研究課題/領域番号 |
17H03011
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
波田 雅彦 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (20228480)
|
研究分担者 |
豊田 和男 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (60347482)
阿部 穣里 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (60534485)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 相対論効果 / 電子EDM / 同位体分別 / 核体積効果 |
研究実績の概要 |
相対論効果が本質となる物理化学現象として、昨年度に電子EDMと相互作用する分子の内部電場について研究を進めた。これに関しては本年度に論文2報を投稿し採択された。本年度は核EDM(核シッフ効果)について検討を進めてきた。この現象は電子EDMと同様にCP対称性非保存の原因のひとつと考えられている。核近傍を精密に表現する基底関数の検討した。この検討の過程で、従来から使われているシッフ効果を表現する式の近似が荒すぎるため、計算精度が不安定であることを発見した。我々は、より近似オーダーを上げた式を提案し、シッフ効果のファクターを安定して精度良く計算することに成功した。 相対論効果が重要となる現象として、上述以外に、同位体交換反応における同位体分別係数の解析に取り組んできた。本プロジェクト以前に、同位体分別係数の実験値が存在する簡単なウラン化合物でテスト計算を実施して、計算方法の妥当性を検証し、相対論効果が極めて重要であることを示した。。本プロジェクトでは、地質学的な研究をサポートすることを目的として、ウラン錯体のウラン同位体分別を対象とし、微生物の生命活動によるウラン濃縮と、無機的化学反応によるウラン濃縮の違いについて検討した。詳細な結果は他所に譲るが、生物的反応と無機的反応の有意な差が、計算によっても再現された。 NMR化学シフトの解析方法を検討し、局在化自然摂動軌道を用いる方法を提案した。単なる局在化軌道による解析では化学シフトと軌道エネルギー差との相関を考察できない。局在化と軌道エネルギーの両者の利点を兼ね備えた局所化自然摂動軌道を開発しプログラミングを終え、従来からの解析例が存在するベンゼン化合物への応用計算を実施し、従来の解析法と比べて優位性を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
核EDMと内部電場との相互作用の計算では、quinyらの従来式での計算が不安定であり、基底関数の選択によって計算結果が大きく異なった。このために半年間をロスした。結果的には、従来式の近似オーダーを上げることで解決した。 ウランの同位体交換反応に於ける同位体分別係数の計算では、幾つかのモデルの検証が残っている。重要な課題としては、完全な化学平衡状態を仮定するか、反応速度論的な効果を取り込むかを検討する必要があろう。 高次相対論においてGIAOを使う方法について検討してきたので、その計算を進めている。また、NMRのQED補正については積分の計算プログラムを作製中であり、検証などに時間が掛かっており、当初の計画よりも進展は遅れている。最終年度に予定通りに終えることは可能であろうと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)QED積分を完成し摂動的なレベルで相対論的なNMR法にQED補正を加えた計算を実施する予定である。 (2)NMR化学シフトの解析法として開発した局所化自然摂動軌道はNMR化学シフト以外にも利用可能であるので、光増強ラマンの解析に適用する。 (3)電子EDM及び核EDMと内部電場との相互作用の計算を種々の系で実施し、実験研究者に対する提案を実施する。 (4)ウランの同位体交換反応について、「現在までの進捗状況」で述べた点を改善して再計算を実施して最終的な結果を得る。
|