研究課題
多スピン分子系の電子状態・位相情報を解明する新しいパルス電子磁気共鳴分光手法(NMRパラダイムESR)の確立を目的として、これまでに確立してきた任意波形パルス技術を適用し、スピン状態の精度とパルス波形の関係を実験的に明らかにするとともに、最適なパルス波形構築への手法を検討した。量子状態制御をマイクロ波パルス照射によって行うが、初期状態から任意の量子状態(終状態)へ状態変換するために作用する変換演算子として任意波形パルスを構築することにより量子状態を制御した。任意波形パルスは、自作のパルス最適化プログラムを用い、目的とする量子制御に最適なパルス波形を数値的に探索することにより求めた。求めたパルス波形による状態変化を理論的にシミュレーションすることにより予測し、実験との比較を行った。粉末系(炭)および溶液系(TEMPOラジカル)のいずれにおいても、自由誘導減衰(FID)の信号をパルスESR分光器で観測することによって、スピンダイナミクスとパルス波形の相関を調べた。粉末系においては、2マイクロ秒の弱いマイクロ波パルスを用いて、選択的な電子スピンの状態制御の実験を行った。溶液系においては、緩和時間が短いため50ナノ秒以下のマイクロ波パルスを用いて、パルス強度依存性を調べた。矩形パルスと任意波形パルスによる電子スピン励起を比較することにより、パルス波形と量子状態制御の効果を電子スピン選択性の観点から考察した。さらなる量子コントロールの高精度化を目指して、パルス波形の最適化技術や量子制御技術の向上を図っている。また、トリチルラジカルとニトロキシドラジカルが交換相互作用するビラジカルがマイクロ波パルスによるスピン制御に適している系であることを実験的に証明し、量子化学計算による電子構造評価を行った。
2: おおむね順調に進展している
独自にカスタマイズしたパルスESR分光器に任意波形信号発生器を組み込んだパルスESRシステムに、自作のパルス波形最適化プログラムの計算波形を取り入れることが可能となり、様々な任意波形パルスを用いた実験がルーチン的に実行できる環境が整った。スピン制御の実験系として、トリチルラジカルとニトロキシドラジカルが適度に交換相互作用するビラジカル系が有効であることが分かったため、今後、このビラジカル系を中心に状態制御の実験を進めることができるため、研究成果につながることが期待される。研究成果として、2報の論文を国際雑誌で発表した。
トリチルラジカルとニトロキシドラジカルからなるビラジカル系が適度な大きさの弱交換相互作用をもつ分子スピン系であることが明らかとなったので、この分子スピン系に任意波形パルスを適用して、スピンダイナミクスとパルス波形デザインの高度化の実証研究を進める。パルス波形途中のスピン応答を逐次的に測定し、量子位相の解析から任意波形パルスに対するスピン応答の有効性と精度を評価する。Xバンド(9 GHz)帯での量子状態制御の実験を継続するとともに、任意波形マイクロ波パルスを周波数変換してQバンド(34 GHz)帯での実験も進めるために、分光器システムに改良を加える。マイクロ波周波数を変えることにより磁場に依存するゼーマン相互作用の大きさが変わるため、非依存の交換相互作用との相対比を変えることができる。相対的に交換相互作用の大きさを操作した実験を進め、多面的な量子状態制御の精度評価を実現する。Qバンド任意波形マイクロ波は、これまでに使用してきたXバンドマイクロ波をアップコンバートして用いる。量子位相評価には正確なパルス照射が不可欠であるため、周波数変換後のパルス校正が重要である。スピン応答を注意深く観測することにより、パルスの精度を高め、実験精度の向上に努める。量子状態制御の実験を多周波化することにより、状態変換に関わる任意波形パルスの効果を多面的なビラジカル系のスピン応答から実験的に確認し、スピンダイナミクス解析を行うことによりスピン状態の時間発展とパルス波形の相互理解を深めるとともに、分子スピン系の相互作用の符号の評価など新しい量子位相分光技術の確立を目指していく。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 12件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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