研究実績の概要 |
反転した立体配置の二重結合を持つ不飽和ケイ素クラスターであるテトラシラビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エン(1)に対して1,2-ジヨードエタンを作用させると、橋頭位にそれぞれヨード基が置換したビシクロ[1.1.0]テトラシラン2が生成した。2を再結晶したところ、再結晶溶媒に依存して異なる二種類の単結晶が得られた。X線結晶構造解析の結果、どちらも橋頭位ケイ素周りはほぼ平面であるが、一方は2つのヨード基はcisに、もう一方はtransに位置していた。前年度明らかにしたジクロロ体と同様に、この化合物もπ型のSi-Si単結合を持つ化合物であることを見出した。この化合物は加熱すると橋頭位のヨード基が脱離して1を再生した。1に対してジヨードメタンあるいはジブロモメタンを作用させたときには橋頭位ケイ素上にハロゲンが置換し、橋頭位ケイ素同士がメチレンで架橋されたビシクロ[1.1.1]ペンタン型化合物3が得られることを見出した。 1に対してLiAlH4を作用させたときには、反転した立体配置の二重結合に単純にヒドリドが付加した化合物ではなく、ビシクロ環の一方が開環したシクロプロペニルアニオンのケイ素類縁体(シクロトリシレニド)4が生成することを見出した。その構造はX線結晶構造解析で明らかにした。ケイ素-ケイ素二重結合を伴ったアニオン(ジシレニド)はこれまでに多数報告例があるが、三員環構造を持つジシレニドは他に例はなく、新たな不飽和ケイ素化合物の前駆体になるものと期待される。 関連して、反転した立体配置の二重結合を持つ不飽和ケイ素クラスターを立体的に安定化させるユニットとなる二価ケイ素化学種5を新たに創出し、X線結晶構造でその構造解析を明らかにした。また、亜酸化窒素を用いた二価ケイ素上への酸素移動反応により、安定なケイ素-酸素二重結合化学種を合成し、その構造を明らかにした。
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