研究実績の概要 |
本研究の目的は,独自の錯体設計に基づき「後周期遷移金属でありながら極めて高いイオン結合性・求核性を持つ遷移金属錯体」を開発し,それを活性種とする単純炭化水素分子の高難度分子変換を実現することである。従来の有機元素配位子に代わり,アルミニウムやその他の典型・遷移金属を配位子として活用することで,後周期遷移金属錯体としての反応性と,典型金属反応剤に匹敵する求核性を兼ね備えた革新的遷移金属錯体を創り出し,単純炭化水素化合物と二酸化炭素や窒素分子など不活性小分子の効率的分子変換を実現する。 本年度はまず,6,6"-bis(phosphino)terpyridineをN,P-多座配位子として合成したAl配位子を持つPd錯体の反応性について検討を進めた。その結果,本錯体を触媒とすることで,二酸化炭素や様々なカルボニル化合物のヒドロシリル化反応が極めて効率的に進行することを明らかとした。また,構造解析とDFT計算の結果から,支持配位子をアルミニウムとすることで,そのトランス位にある結合が大き く伸長することや,極めて高いイオン結合性を持つことを見いだし,これが本錯体の高い求核性の起源となっているものと考えることができた。また,Al以外の金属配位子の導入について検討し,8族,9族金属をもつterpyridine配位子の合成経路について,備的知見を得ることができた。これについては,他の後周期遷移金属との錯体化と構造解析を今後検討する予定である。さらにterpyridine以外のN,P-多座配位子の設計と開発にも着手し,有望な知見を得ることにも成功した。
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