継続して進めてきた7-アザインドリンを利用する触媒的不斉炭素炭素結合形成反応の開発の最終段階として,不安定化学種の捕捉や光触媒/ルイス酸触媒の協奏機能型触媒系などの新たな方向を模索した。アミドのエノラートはその熱力学的な不安定さから捕捉が困難で,生成物のジアステレオ選択性を直接的に決定するエノラートのE/Zジオメトリーの同定は容易ではない。一般には生成物の立体化学からE/Zジオメトリーを推測するのが常法であるが,アザインドリンの強固なキレート形成能を利用してエノラートの直接観測を試みた。7-アザインドリンを有するチオアミドを調製して当量の銅塩と塩基を作用させたところ,Z-エノラートがNMRにより直接観測可能であることを見出し,続くアルドール生成物のsyn配置と矛盾しないことを確認した。一方、不飽和7-アザインドリンアミドをラジカル受容体とするIr/Cu光触媒/ルイス酸触媒の協奏機能型触媒系アミノメチル化反応の開発に成功した。本反応において,7-アザインドリン上の置換基効果が如実に観測され,ラジカル反応おける本アミド基質のキラルルイス酸との配位形式が大きく立体選択性に影響を与えることを見出した。高難度反応として残されていたアセトニトリルを直接炭素求核剤とする触媒的不斉炭素炭素結合形成反応においても大きな飛躍があった。アセトニトリルの極度に低い立体バイアスを補完するべく,高度に組織化された不斉空間の最奧に配置したNi(II)によるアセトニトリルの活性化,脱プロトン化,つづくイミンへの付加反応を検討したところ,今まで不可能であった平均95%ee以上のエナンチオ選択性を発揮する触媒系の同定することができた。
|