研究課題
1. 水溶液中におけるルテニウム(V)-イミド(Ru(V)=NH)錯体によるC-H酸化反応について、数多くの知見を得ることができた。その中で、各種有機化合物のC-H結合の酸化反応に関して、速度的解析に基づく反応機構の解明を行った。その結果、水溶性エチルベンゼン誘導体のベンジル位におけるC-H結合の酸化反応では、速度論的同位体効果(k(H)/k(D))が21であり、水溶媒の同位体効果が72であった。これは、基質のC-H結合からRu(V)=NH錯体への水素移動反応(HAT)がトンネリングを経て進行しており、溶媒である水分子の遷移状態への関与を示唆している。また、シクロブタノールを基質とした場合、シクロブタノンが反応生成物として得られ、開環化合物は認められなかった。この結果は、基質のC-H結合からRu(V)=NH錯体へのHATは、水素としてではなく、ヒドリドとして移動していることを示している。この反応の遷移状態に関するDFT計算でも、ヒドリド移動の遷移状態のほうが水素移動のそれよりも遙かに安定であることが支持されている。2. 新規六配位ルテニウム(IV)-オキソ(Ru(IV)=O)錯体及び既報のRu(IV)=O錯体を合成し、アセトニトリル中での各種電子供与体からの電子移動による還元反応をマーカス式に基づいて速度論的に解析し、それらRu(IV)=O錯体の電子移動の再配列エネルギーをそれぞれ1.92 eV及び1.7 eVと決定した。これは、Ru(IV)=O錯体のλ値を決定した初めての例である。これらの値は鉄(IV)-オキソ錯体の報告値と比べて小さく、Ru(IV)=O錯体の方が電子移動における構造変化が小さい事が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
1.先に述べたように、Ru(V)=NH錯体のC-H酸化反応機構の解明については、ほぼ完了し、投稿論文(full paper)を作成する段階まで来ている。ただし、オレフィン類のC=C2重結合に対する反応性については、まだ詳細を明らかにするには至っていない。2.六配位のRu(IV)=O錯体における電子移動の再配列エネルギーを意義ある精度で決定することができた。これについては、もう少し電子供与体の種類を増やして、λ値の精度を上げたいと考えている。一方、我々が生成に成功した水溶液中で生成する低スピン状態にある7配位構造のRu(IV)=O錯体については、まだ電子移動の再配列エネルギーを決定するには至っていない。さらに、プロトンが存在する条件下で、各種電子供与体からRu(IV)=O錯体への電子移動反応をマーカス理論に基づいて速度論的に解析し、プロトン共役電子移動におけるλ値の決定を行い、電子移動過程との差異を明らかにする。これらを含めて論文を作成し、投稿する予定である。
1.Ru(V)=NH錯体による水溶液中でのオレフィン類の酸化反応を検討したい。反応生成物の同定と、その反応速度論に基づく解析を行う予定である。2.Ru(IV)=O錯体の電子移動の再配列エネルギーの精度を上げるため、これまでのデータに反応速度定数を追加し、マーカスプロットの完成度を向上させる。また、先に述べた水溶液中で生成する低スピン状態にある7配位構造のRu(IV)=O錯体及び6配位構造のRu(IV)=O錯体に関して、水溶液中での電子供与体からの電子移動反応を行い、同様の手法でλ値を決定し、水溶液中での電子移動特性の比較を行う。また、水溶液中でのプロトン共役電子移動におけるλ値の決定も合わせて行い、有機溶媒中での電子移動反応との差異を明らかにする。3.ほとんど報告例のない、Ru(V)-オキソ(Ru(V)=O)錯体の合成とキャラクタリゼーション、及びその有機化合物の酸化反応における反応性と反応機構を明らかにする。Ru(V)状態を安定化するために、配位子として、アニオン性3座配位子である酸化耐性の高い環状無機物であるシクロトリフォスフェート(P3O9(3-))、及び置換基による電子的効果を検討しうる2,2'-ビピリジン(bpy)を2座配位子として用いる。Ru(V)=O錯体の合成は、有機溶媒中でのRu(III)-メトキソ前駆体錯体とメタクロロ過安息香酸などの過酸化物との反応により行う。合成したRu(V)=O錯体については、X線結晶構造解析、各種分光学的手法によりキャラクタリゼーションを行う。有機基質の酸化反応については、C-H酸化及びオレフィンのC=C結合酸化を主眼とする。
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