研究課題/領域番号 |
17H03029
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小坂田 耕太郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (00152455)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 複核遷移金属錯体 / パラジウム / 白金 / ケイ素配位子 / 有機シラン |
研究実績の概要 |
単核白金錯体[Pt(PPh3)3]および三核白金(0)錯体[Pt3(SiAr2)3(PMe3)3]を触媒に用い、芳香族アルデヒド、ケトンなどのカルボニル化合物のヒドロシリル化反応を行い、両者の反応生成物、反応速度、置換基効果などについて温和な条件で促進することを見出した。さらに、この反応を単核白金錯体[Pt(PPh3)3]触媒を用いて行ったところ、両者の反応結果が大きく異なることを明らかにした。 具体的には、以下の点について成果をあげた。 1)アルデヒドのヒドロシリル化反応について単核白金錯体触媒を用いると、芳香族基質の置換基効果が小さいことがわかった。一方三核白金錯体触媒を用いた場合には、アルデヒドのパラ位の置換基が反応速度に与える効果が大きく、例えばトリルアルデヒドの反応速度はベンズアルデヒドの100倍近く速い。アセトフェノンのヒドロシリル化は、単核錯体では選択的に進行するのに対し、三核錯体では脱水素シリル化を併発する。詳細な反応速度測定の結果もあわせ、両者がことなる機構でヒドロシリル化を起こしていることが明らかになり、実際にそれぞれの機構を提案した。 2)白金三核錯体触媒は反応後も全く変化しておらず、三核構造を保ったままで触媒として機能していることが明らかになった。これに関連して量論的な有機ケイ素化合物との反応から、基質が配位したPt3Si4型の三核白金錯体触媒を単離、構造決定した。この錯体の溶液挙動から、Pt3Si3型の錯体とPt3Si4型の錯体では、シランの付加、脱離の平衡にあることが明らかになった。 3)類似構造のゲルミレン配位子を有する三核錯体[Pt3(GeAr2)3(PMe3)3]を合成し、そのシラン類との量論反応を行った。その結果、シランの付加はおこるものの、ゲルミレン配位子とシラン類との交換はおこらないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要欄に述べた事項のうち1)については、通常用いられる白金単核錯体に対して、申請者が合成して触媒に用いたシリレン架橋白金三核錯体がヒドロシリル化を促進する一方でその選択性、反応速度が大きく異なることを示す重要な実験結果といえる。これによって、三核錯体は単核に分解したのち触媒として機能しているのではなく、三核構造を保持したまま反応サイクルを円滑に進めていることがわかった。このことは、本研究申請時の基本概念を支持するものであるとともに、新しい触媒機能への可能性を示唆するものである。 概要欄2)に記載したPt3Si4型の新規錯体は、従来にないケイ素配位子の金属への結合様式を含むものであり、かつ特異な動的挙動を有することから触媒科学にとどまらず、有機金属化学の分野においても極めて重要な化合物であると判断される。このような化学種の構造や反応性を明らかにできたことは、重要な学術上の知見である。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の研究において、橋架けシリレン配位子を有する三核白金錯体錯体がカルボニル化合物のヒドロシリル化を触媒すること、新規性が高い中間体を経由する機構で進行していることが明らかになった。本研究開始時の懸念であった、「三核錯体触媒を最初に用いているものの、実体は単核に分解した白金化学種が触媒としての作用をしているのではないか?」との懸念が払しょくされたことになった。さらに置換基効果などの点で三核白金錯体触媒の特徴も見出されたので、これに基づいて当初の計画を大きく発展できることになった。 今後は対象を、当初の目標であった炭素―ケイ素結合形成反応及びその前段階といえるケイ素―ケイ素結合形成反応におき、シリレン架橋白金三核錯体の触媒としての機能を評価する。これを支援する目的で、29年度に得られた、ヒドロシリル反応中間体となるPt3Si4型の錯体と有機ケイ素化合物、活性化された芳香族有機化合物との量論的な反応を行い、Pt3骨格におけるSi-H結合、C-H結合の活性化反応を試みる。種々の条件での実験研究によって触媒的な基質活性化に適した条件を探索する。 これらを29年度の成果とあわせ、、シリレン、ゲルミレン配位白金三核錯体触媒による結合形成反応の最大限の可能性を明確にし、これらが自己修復触媒として新しい触媒科学の分野として発展するように、研究成果を整理、発表する。
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