研究課題/領域番号 |
17H03032
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
藤井 浩 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (80228957)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 次亜塩素酸 / ヘム / 反応性 / 結合開裂様式 |
研究実績の概要 |
ヘムに配位した次亜塩素酸イオンの開裂過程を研究するため、電子吸引性度の異なるポルフィリン配位子の合成を行った。ポルフィリンのメソ位に結合するフェニル基内にフッ素原子を導入し、その導入数を変えることで電子吸引性度の調整を行った。予定通り、ポルフィリンを合成することができた。これらポルフィリンに鉄イオンを挿入してヘム錯体とした。これらヘム錯体をそれぞれジクロロメタンに溶解して、低温下、次亜塩素酸イオンを添加した。反応過程を吸収スペクトルを用いて追跡した結果、次亜塩素酸イオンとの反応から鉄4価オキソポルフィリンπカチオンラジカル錯体を生成するヘムと鉄4価オキソポルフィリン錯体を生成するヘムに分類できることが明らかとなった。それぞれのヘムと開裂過程の関わりを解明するため、鉄4価オキソポルフィリン錯体の酸化還元電位を測定した。その結果、酸化還元電位が約1.1V以上のヘムからは、次亜塩素酸イオンから鉄4価オキソポルフィリン錯体を生成するのに対して、それ以下のヘムからは鉄4価オキソポルフィリンπカチオンラジカル錯体が生成していることが明らかとなった。一方、次亜塩素酸イオンの開裂様式をシクロオクテンのエポキシ化反応の収率から推定すると、すべてのヘムで次亜塩素酸イオンはイオン的に開裂して鉄4価オキソポルフィリンπカチオンラジカル錯体を生成していることが示唆された。以上の結果から、ヘムと次亜塩素酸イオンの反応はすべてイオン的開裂が起き鉄4価オキソポルフィリンπカチオンラジカル錯体が生成するが、酸化還元電位が1.1V以上の鉄4価オキソポルフィリンπカチオンラジカル錯体では溶液中の余剰な次亜塩素酸イオンと反応し、鉄4価オキソポルフィリン錯体に還元される、という機構が提唱できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、計画していた実験を順調に進めることができた。その結果、次亜塩素酸イオンがヘムとの反応でどのように結合を開裂させるかを明らかにすることができた。さらにその結合過程とヘムの電子状態との関わりについても研究を進めることができた。その結果、次亜塩素酸イオンはすべてのヘムとの反応でイオン的な開裂をするが、高原子価オキソ種と次亜塩素酸イオンの酸化還元電位の大小により最終生成物が決定されるという機構を実験的に示すことができた。このような機構は、当初推定した機構とは大きく異なり、これまでにない斬新な機構を提唱することができた。ここで提唱した機構が多くの酸化剤に適応できることが証明できれば、新たな概念となると考える。
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今後の研究の推進方策 |
計画に沿って、次亜塩素酸イオンとヘムの反応の研究を進める。また、本年度得られた新しい機構がより一般的な概念へと発展させることができるかについても新たに検討を行う。
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