研究課題/領域番号 |
17H03033
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
小野 晶 神奈川大学, 工学部, 教授 (10183253)
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研究分担者 |
近藤 次郎 上智大学, 理工学部, 准教授 (10546576)
田中 好幸 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (70333797)
山田 亮 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20343741)
鳥越 秀峰 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 教授 (80227678)
實吉 尚郎 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (10564784)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属含有DNA二重鎖 / DNAナノワイヤー / 金属錯体 / 結晶構造 / DNA超分子 / 金属錯体 / Ag-DNA wire / Hg-DNA wire |
研究実績の概要 |
2019年度の研究目標は、DNA二重鎖中で無限に金属イオンが連続する超分子錯体(金属-DNAワイヤー)を合成し、その構造と物性を研究することであった。また、新規金属含有塩基対を見出す実験を実施した。2017年度、2018年度と連続して、Ag(I)-DNAワイヤーを与えるオリゴヌクレオチド、5’-(GGACTBrC GACTCC)-3’ (Nature Chemistry, 2017, 9, 956-960, 及び、5’-d(CGCGCBrUCBrUCGCG)-3’ (論文作成中)を見出した。即ち、これらのオリゴヌクレオチドとAg(I)イオンの溶液からAg(I)-DNAワイヤーの結晶を得た。さらに2019年度はHg(II)とTTTGCの混液から、DNA構造に沿ってHg(II)イオンが連続する、長鎖のHg(II)-DNAワイヤーの結晶を得た(Angew. Chem. Int. Ed., 2019, 58, 16835-16338)。ワイヤー中では、チミン-Hg(II)-チミン(T-Hg(II)-T)およびグアニン-Hg(II)-チミン(G-Hg(II)-T)が形成されていたが、連続するT-Hg(II)-T塩基対は交差するように形成されており、Hg-DNAワイヤーは緩やかな螺旋を形成していた。 金属イオンの多様性、金属-DNAワイヤーの多様性を向上するために、核酸塩基のカルボニル基をチオカルボニル基に置換したオリゴヌクレオチドを合成し、金属イオン結合性を調査した。グアニンの6位カルボニル基をチオカルボニル基に置換した6-thioG-6-thioG塩基対を有する二重鎖は、Cu(II)イオン存在下で良好な結晶を与えたが、結晶中にはCu(II)イオンは存在しておらず、6-thioG塩基がジスルフィド結合を形成していた。DNA二重鎖上における、金属イオンの新しい反応を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属含有DNA二重鎖の結晶構造を解析する研究は順調に成果を生み出している。2017年度にAg(I)-DNAワイヤーの結晶構造(Nature Chemistry, 2017, 9, 956-960)、二つのAg(I)イオンを有する塩基対、4-thioThymine-2Ag(I)-4-thioThymine、を含むDNA二重鎖の結晶構造(Chem. Comm., 2017, 53, 11747-11750)を報告したのに引き続き、2018年度、オリゴヌクレオチド5’-d(CGCGCBCBCGCG)-3’とAg(I)イオンから、新規のAg(I)-DNAワイヤーを得た。分光法を用いることで、このAg(I)-DNAワイヤーが溶液中で安定に形成されることが支持される結果を得た。2019年度、Hg(II)とTTTGCの混液から、DNA構造に沿ってHg(II)イオンが連続する、長鎖のHg(II)-DNAワイヤーの結晶を得た(Angew. Chem. Int. Ed., 2019, 58, 16835-16338)。 さらに、新規の反応を見出した。即ち、DNA二重鎖中の6-thioG-6-thioG塩基対を有する二重鎖は、Cu(II)イオン存在下で速やかにジスルフィド結合を形成した(RCS adv, 2019, 9, 22859)。DNA二重鎖上における、金属イオンの新しい反応を見出した。 金属含有RNA二重鎖の合成にも着手した。ウラシル2位のカルボニル基をチオカルボニル基に置換した2-thioUを有するオリゴヌクレオチドを合成し、2-thioU-2-thioU塩基対を有するRNA二重鎖として金属イオンの結合を調査した。さらに、平行型二重鎖を大きく安定化する金属含有塩基対の開発に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度と同様に、金属含有DNA二重鎖の結晶構造を解析する研究を継続する。結晶化は、時間と手数のかかる実験操作を継続することが重要である。また、既存の結晶構造を論文として報告する。さて、2019年度に新たに見出したAg(I)-DNAワイヤーは、溶液中でも安定に形成されることが期待されている。2020年度は、NMR法を用いて溶液中におけるAg(I)-DNAワイヤーの形成を観測し、さらにAFMを利用して長鎖のAg(I)-DNAワイヤーを検出する。既に結晶構造解析に成功している。即ち、原子レベルの部分構造から全体構造まで、様々な視点から解析したデータを蓄積することが、今後の目的である。 上記のように金属-DNAワイヤーの合成と構造解析に関するデータが蓄積されつつあるが、金属-DNAワイヤーの物性解析は進んでいない。2019年度、金属含有塩基対、thymine-Hg(II)-thymine、を有する短鎖DNA二重鎖の単分子導電性を解析し、T-Tミスペアを有する二重鎖にHg(II)イオンを添加することで導電性が向上することが確認された(Nucleosides, Nucleotides & Nucleic Acids, in press)。 2020年度は新たな研究に着手する。金属-DNAワイヤーを連結して、さらなる高次構造を構築する研究である。即ち、DNAワイヤーの側鎖を結合し、側鎖間の相互作用を利用して金属-DNAワイヤーを連結する手法を開発する。また、金属-DNAワイヤーを還元条件で処理することで、金属ナノ粒子を形成させる手法を検討する。金属としてはAgまたはAuを用いる。DNAを基盤としてAgナノ粒子を合成する手法は報告があるが、DNAを利用するAuなの粒子の合成は報告が無い。金属ナノ粒子を合成するだけでなく、DNAを利用して金属ナノ粒子を連結する手法の開発を目的とする。
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