研究課題/領域番号 |
17H03034
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
守橋 健二 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90182261)
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研究分担者 |
大塚 教雄 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (30465968)
井澤 浩則 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (50643235)
松井 亨 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70716076)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アニオンセンサー / ナフタルイミド誘導体 / 励起電子状態 / CDFT / TDDFT |
研究実績の概要 |
『UV照射による1-メチル-3-(N-(1,8-ナフタルイミジル)エチル)イミダゾリウム (MNEI)水溶液の黄色化』が、酢酸、クエン酸、ポリアクリル酸、アルギン酸など、カルボン酸を有する分子に特異的な現象であることを明らかにしたが、MNEI水溶液の黄色化のメカニズムの解明には至っていなかった。この問題を解明するために、MNEIのイミダゾリウムをメチルアンモニウムに改変した3-(N-(1,8-ナフタルイミジル)エチル)トリメチルアンモニウム (TENI) を合成し、TENIがMNEIと同様の発光・黄色化挙動を示すことを明らかにした。この実験からUV照射によって起こる黄色化現象は、カルボキシ基からの電荷移動であり、 発色している化学種は、それぞれのラジカルアニオンであることが実験的に示唆された。 MNEIとカルボン酸複合体の電子移動過程について、3種の1価カルボン酸のMNEI複合体および2価コハク酸のMNEI複合体の構造決定をそれぞれ行い、TD-DFT計算から吸収・蛍光スペクトル実験を再現できる計算結果を得た。電荷移動励起状態の計算にはCDFT計算を用い、カルボン酸陰イオンからMNEIの分子間電子移動過程を解析した。 MNEIがどのような陰イオンを識別できるかを、実験的に既知のMNEI塩の光化学特性に対し、量子化学計算などから抽出した特徴量を用意し、機械学習を用いて特徴選択・推定モデルを作成した。このモデルを用いて実験的に未特定の陰イオンとMNEI複合体の光化学的挙動を推定し、MNEIの認識試薬としての適用範囲を特定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
UV照射による溶液の黄色化がカルボキシ基からTENI(3-(N-(1,8-ナフタルイミジル)エチル)トリメチルアンモニウム)への電子移動によるラジカルアニオン種の生成であることを証明するために、ESR測定を行った。しかし、水中での測定の難しさやラジカルの不安定性により、ESR測定は困難であった。そこで、還元反応により退色するメチレンブルー(MB)を用いて、その検証を行った。黄色化が起こるコハク酸-TENI系では、UV照射によってMB由来の吸収ピークが消失し、溶液が青色から無色に変化した。また、コハク酸ナトリウムのみのブランク実験や黄色化が起こりにくい酢酸-TENI系では、還元反応が起こらなかった。これらのことから、黄色化はラジカルアニオン種の生成であることが確認された。理論的にも1価カルボン酸からMNEIへの電子移動によって、ナフタルイミジル環部位がラジカルアニオンになることがTD-DFT計算結果から示された。 TENIの核酸センシングへの応用を検討した。0-100 μM DNA (dA20-dT20、dC20-dG20、d(CCATTAATGG))-100 μM NIET水溶液のUV-Visスペクトルを測定した。その結果、dA20-dT20、dC20-dG20は、DNA濃度の増加に伴ってTENIの吸収スペクトルの強度が低下したが、d(CCATTAATGG)では、吸収の低下が起きなかった。分子動力学および量子化学計算でTENIとDNAの相互作用を推定した。昨年度行った分子動力学計算の結果から(a)TENIが核酸塩基対間にインターカレート、 (b) 核酸の塩基部位がフリップしてナフタル基と入れ替わる 2パターンが観察された。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に合成したナフタレンジイミド誘導体は、新たなカルボン酸検出試薬として有望なので、その性能を詳細に評価する。カルボン酸によるMNEI水溶液の黄色化の原因は、光励起電子移動によってナフタルイミジル(NI)環部位がラジカルアニオンになることが理論的にも確認されている。本年度は、光励起電子移動後のカルボン酸―MNEI錯体の安定度をTD-DFT計算による励起状態の振動解析を実行し、カルボン酸の種類によって呈色するものとしないものがある理由を明確にする。CDFT計算でも、MNEIをNI環部位とイミダゾリウム環部位に電荷を分離して構造最適化を行い、光励起電子移動後のカルボン酸―MNEI錯体の安定度を検証する。機械学習を用いたMNEI塩の蛍光・呈色性の解析については、さらにテストデータを加えて推定モデルの信頼性を高める。 MNEIがどのような陰イオンを識別できるかを、実験的に既知のMNEI塩の光化学特性に対し、量子化学計算などから抽出した特徴量を用意し、機械学習を用いて特徴選択・推定モデル作成する。このモデルを用いて実験的に未特定の陰イオンとMNEI複合体の光化学的挙動を推定し、MNEIの認識試薬としての適用範囲を特定する。 ナフタルイミド誘導体は光照射によってDNAを切断することから抗がん剤として期待されている。昨年度に合成したTENI類縁体の核酸センシングへの応用を理論計算と実験の両面で検討する。進捗状況で述べたように、紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルの結果からナフタルイミド誘導体とDNAが相互作用していることは明らかである。本年度は、ナフタルイミド誘導体とDNAの相互作用を,分子動力学および量子化学計算で解明し、TENI類縁体の核酸センシングへの可能性を検討する。
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