相分離による部分結晶化が光誘起される、YAG (Y3Al5O12)結晶の析出が期待できるAl2O3-Y2O3ガラスに着目した。希土類イオン(Ce3+)を添加したAl2O3-Y2O3ガラスにおいて、ナノ周期での結晶析出が、発光中心であるCe3+の配位子場に与える影響を調べた。さらに、レーザー照射条件やその後の熱処理によるYAG微結晶の析出と成長の観点から、ナノスケールで結晶析出が起こるメカニズムの解明を試みた。Al2O3-Y2O3ガラスは、ガス浮遊レーザー溶融炉により合成した。フェムト秒レーザー照射後の集光部近傍を顕微ラマン分光および反射電子像により評価したところ、YAG結晶とAl2O3-Y2O3ガラスがナノスケールで交互に配列していることが判明した。さらにカソードルミネッセンスにより局所領域の発光スペクトルを観察したところ、ナノ周期構造と同じ周期でCe3+の発光強度の周期的変化が見られた。これは、YAG微結晶が析出した領域において、結晶場による発光強度の増大を示唆している。これによりナノ周期構造により発現される複屈折に加え、Ce3+の発光強度を情報記録に利用できる可能性を見出した。さらに、発光強度の熱的安定性を評価するため、レーザー照射後の試料を熱処理(300~700℃、30 min)し、レーザー照射部における発光強度変化を評価した。照射レーザーのパルス繰返し周波数が低い場合、作製したAl2O3-Y2O3ガラスの結晶化温度が約800℃であるにもかかわらず、各熱処理温度で発光強度が増加した。一方、高繰返し周波数の場合は顕著な変化は見られなかった。照射するフェムト秒レーザーパルスの繰返し周波数による熱蓄積の寄与が結晶析出に関係していることを示唆する結果である。
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