研究課題/領域番号 |
17H03042
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
荒谷 直樹 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60372562)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 有機化学 / 物性 / アセン / 有機半導体 / 分子性グラフェン |
研究実績の概要 |
本研究課題では、「斬新な機能性立体π共役系の構築」を目指し、構造の明確な、分子として取り扱うことのできる真に新しいナノカーボンマテリアルの科学を探究する。これまでにない巨大な立体的π共役系をもつ多環芳香族炭化水素(PAH)の合成戦略および合成ルートを確立し、その物性を厳密に原子レベルで構造解析・評価する。これが同時にπ共役系に囲まれた「空間」をデザインしていることを意識し、層間あるいは閉じた空間など、壁の内側の空間も利活用する。 平成29年度は、世界でまだ誰も提唱していない分子性グラファイトを有機化学的に合成し、強制的に近接した距離におかれた色素同士の電子的相互作用を探索した。そのための分子設計指針と合成法を確立した。申請者はこれまでにプロトタイプとして1,8-ナフタレン架橋ペリレンの積層2量体及び3量体の合成に成功し、その結晶構造から面間隔が平均3.4 Åになっていることを明らかにしている。強制的に近接した距離におかれたペリレン同士の電子的相互作用を電気化学測定などで明らかにし、さらに予備的にはこの面間に3つのナトリウムイオンを取り込むことを明らかにしている。今回、さらに強い色素間の相互作用を期待し、両端の2箇所を1,8-ナフタレン架橋する対面型2量体(シクロファン)の合成に挑戦した。無置換ペリレンは、結晶中ではスタックにより二量体化した状態で周期構造をなしているが、これが良好な一重項分裂を起こすことが知られている。1つの光子入射から2つの励起状態を産み出すこの現象を利用することにより、例えば太陽電池の効率の飛躍的向上が期待されている。シクロファンを形成することにより、単結晶でなくとも溶液中や薄膜でも常にスタックした二量体構造を達成でき、任意のメディアで一重項分裂が利用できる可能性があり、これが達成されれば応用の範囲は飛躍的に拡がる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回、構造の束縛条件が厳しく合成が困難であると予想された両端を1,8-ナフチレン架橋したペリレン2量体の合成に成功したことは、非常に画期的な成果である。無置換ペリレンは、結晶中ではスタックにより二量体化した状態で周期構造をなしているが、これが良好な一重項分裂を起こすことが知られている。ペリレンシクロファンを形成することにより、単結晶でなくとも溶液中や薄膜でも常にスタックした二量体構造を達成でき、任意のメディアで一重項分裂が利用できる可能性があり、これが達成されれば応用の範囲は飛躍的に拡がる。片側架橋ペリレン2量体は発光性化合物であるが、ペリレンシクロファンの蛍光は消光しており、一重項分裂が起きていることが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
ベンゼン環からナノグラフェンをボトムアップ的に合成することが盛んに研究されている。本研究では更に進んで、世界でまだ誰も提唱していない分子性グラファイトを有機化学的に合成する。よりグラファイトの特性に近づくよう、ヘキサベンゾコロネンへπ共役平面を拡大し、1,8-ナフタレン架橋により共有結合的に積層する。高効率の酸化還元特性や優れた半導体特性などをもつ分子性ナノグラファイトをベースとする電子材料の開発を目指す。また、原子レベルで構造の明確な分子性グラファイトを用いてグラフェン層間へのリチウムイオンの挿入脱離を調査し、その酸化還元性能を評価する。電極のモデル分子として、電極性能向上と、作用機構の解明を目指す。さらに、層間に金属カリウムを貫入させ、カリウムグラファイトのモデル化合物として還元能力などを調べる。 さらに、分子レベルの構造としては依然として完全に制御できていないカーボンナノチューブを、有機合成化学的にボトムアップ手法で合成する。 armchair型のカーボンナノチューブの部分構造であるシクロパラフェニレン(CPP)は盛んに研究されているが、これまでにほとんど合成例のないzigzag型カーボンナノチューブのボトムアップ合成に挑戦する。一般的にzigzag構造はedge部分にスピンが残るため(ラジカルになるため)不安定であるが、縦方向にベンゼン環を導入してシクラセン共役系を回避し、安定性を確保する。このシクラセン共役系回避はzigzag型カーボンナノチューブの合成の妨げにならないことがポイントである。化合物の溶解性と酸化に対する安定性に注意しながら、たとえばピレンの反応性を利用してベルト状化合物を経由し、最後は酸化によって共役系を完成させる。曲面π共役系としても『面』をもつ点でリング状化合物とは一線を画する。
|