研究課題/領域番号 |
17H03046
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山田 鉄兵 九州大学, 工学研究院, 准教授 (10404071)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱化学電池 / 超分子化学 / 相転移 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、これまでのシクロデキストリンとヨウ素を用いた熱化学の研究を深化するとともに、ミセル化を用いた熱化学電池の研究を主に行った。 【1,超分子熱化学電池】αーシクロデキストリンのヒドロキシ基を修飾することで、ホストゲスト相互作用を調整し、それによる熱化学電池の性能の向上を図った。α-CDの12個のヒドロキシ基をメチル化すると、得られるゼーベック係数が増加することを明らかにした。またβおよびγシクロデキストリンを包接した際もわずかなゼーベック係数の増加が見られた。このゼーベック係数の変化とホスト濃度との関係から、I3-イオンの包接エンタルピーを見積もることができることも明らかにした。この論文はBulletin of the Chemical Society of Japan誌に投稿した。さらにα-CDの18個のヒドロキシ基をすべてメチル化するとI5-イオンを安定的に包接し、高いゼーベック係数を沈殿を形成せずに得ることが出来ることがわかった。この結果は正のゼーベック係数を示す熱化学電池として有用であり、Chem. Sci.誌に投稿した。 【2,ポリスルフィドを用いた熱化学電池】ポリスルフィドはリチウム-硫黄電池の正極材料として期待されているが、多様な酸化状態を取る上にそれらの不均化平衡が存在するため、実態の解明が困難であった。我々はポリスルフィドの溶液を用いた熱化学電池を構築し、イオウの添加量とゼーベック係数との関係を調べたところ、イオウの添加に伴いゼーベック係数が負から正へと変化した。このゼーベック係数から、主要なレドックス種を明らかにすることにも成功した。この結果は正負両方のゼーベック係数を得るための新しい手法の提案であるとともに、熱化学電池が酸化還元種の特定に有用な分析手法であることを明らかにした点に価値があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホストーゲスト熱化学電池は、当初の予定を越えた成果を得ている。またポリスルフィド熱化学電池と言ったあらたな分子科学的熱化学電池への展開に成功している。ポリスルフィド熱化学電池はサーモクロミズムを示すことも明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
相転移を利用した熱化学電池の検討を進める。熱化学電池の熱電変換効率は、単位温度差あたりの電圧を表すゼーベック係数に大きく依存する。そのため、相転移挙動を利用して単位温度差あたりの化学的環境変化を大きくすることで、小さな温度差で大きな熱起電力を得ることが出来ると期待される。本課題ではLCST型の応答を示すホスト材料を用いて熱化学電池の構築を進める。 さらに、錯体のプロトン共役電子移動反応を利用した熱化学電池の探索を進める。プロトン共役電子移動反応では、レドックスに応じてプロトンの授受が生じるため、プロトンの溶媒和エントロピーを利用できると期待される。
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