研究課題/領域番号 |
17H03048
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
吉川 浩史 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (60397453)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属有機構造体 / ポリオキソメタレート / XAFS / 二次電池 / 電荷移動錯体 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者がこれまで行ってきた「固体電気化学反応による機能開拓研究」を基に、金属有機構造体などの有機無機複合物質や金属酸化物ナノ粒子といった様々なナノ材料を対象に、次世代二次電池として実用化されるような性能を有する蓄電デバイスの開発研究と固体電気化学反応を利用した新奇物性開拓(例えば、磁性、超伝導、光物性)を行い、新しいエネルギーデバイス創製につながるような新現象・原理の発見と応用展開を目的とする。今年度は、主に、有機無機複合物質の電極特性および物性開拓において顕著な業績をあげることができたので報告する。 まず、ドナーとアクセプターが交互に積層し、1次元チャネルを有するカラム構造を取る電荷移動錯体を数多く創製し、それらがドナー及びアクセプター両分子の酸化還元反応に由来する大きな電池容量と空孔に由来した速いLiイオン拡散を示すことを明らかにした。 次に、電解質イオンの拡散や構造的安定性の観点から、電池正極材料として注目を集めている多孔性の三次元ポリオキソメタレート(POM)関連化合物に着目し、七角形及び六角形状の1次元空孔を有するMoとVからなる三次元POM(MoVO)を新規に創製して、これを正極活物質とするナトリウム電池の充放電特性を検討した。その結果、従来のナトリウム電池用正極材料よりも大きな容量を示すことを明らかにし、X線吸収微細構造分析(XAFS)から、MoとVの酸化還元に基づく、組成式当たり数十電子以上の酸化還元反応に由来するものであることを明らかにした。 最後に、物性開拓として、これまであまり報告例のない硫黄系配位子と鉛からなる新しい金属有機構造体(MOF)を開発し、その結晶構造を解明するとともに、これが半導体であることを明らかにした。この光照射下における触媒特性を検討したところ水を水素に変換する触媒として機能することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、金属有機構造体などの有機無機複合物質を用いることによってこれまでの遷移金属酸化物には見られない電極特性(二次電池正極特性や光触媒機能など)を見出すことができている。 このような有機無機複合物質の電極特性および物性開拓における顕著な業績は、次世代二次電池として実用化されるような性能を有する蓄電デバイスの開発研究と固体電気化学反応を利用した新奇物性開拓(例えば、磁性、超伝導、光物性)を行い、新しいエネルギーデバイス創製につながるような新現象・原理の発見と応用展開を目的とする本研究目的に十分合致する成果と言え、おおむね研究は当初の予定通り順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後であるが、引き続き、課題(i)高性能な蓄電材料の創製と蓄電デバイスへの応用、および課題(ii)固体電気化学反応を利用した新奇物性開拓、の2つの研究について、以下のように進めていく。 課題(i)については、これまでの研究結果を基に、多電子の酸化還元反応を示す多孔性の金属有機構造体(MOF)や共有結合性有機構造体(COF)をさらに創製し、その蓄電特性を開拓する。このような新しい正極材料の開発を続けるとともに、実用化という観点から、正極中の活物質濃度を増やすことや活物質の溶解を防ぐ試みを行う。具体的には、ドクターブレード法による薄膜電極作製による正極中の活物質濃度50wt%以上と固体電解質としてゲル高分子電解質の利用による活物質の溶解防止を検討する。最終的には、高い正極充填率(70wt%以上)、高容量(300 Ah/kg以上)、急速充電(数分)、安定なサイクル特性(数千サイクル以上)を実現し、従来の金属酸化物系ではない新しい電池正極材料を実用化可能なレベルに近づける。 一方で、課題(ii)については、電気化学反応による光物性の制御について、CdSeやCdTeといった発光特性を示す半導体ナノ粒子やMOFを対象に、in situ条件下で詳細に検討するとともに、光照射による電気化学反応チューニングの研究にも着手する。具体的には、光異性化反応を示すアゾ基を有するMOFを対象に、光照射による構造変化を利用したイオン輸送制御を検討する。さらに、多孔性ドナーアクセプター型電荷移動錯体を対象に、光誘起電荷移動を利用した電圧の向上などを実現する。 以上の研究を通して、固体電気化学と物性化学の融合領域を、基礎と応用の両面で進展させる。
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